2010年 03月 21日 ( 1 )

カフェ・ド・鬼



驚いた。
夜、JR宝塚線「中山寺」駅周辺を歩いていると一瞬、車のヘッドライトによって一体の置き看板が照らしだされた。

カフェ・ド・鬼_a0037241_2373588.jpg


金物の鬼

夜道に突如またたいた、インパク度ありすぎ看板。
まさに孤灯の鬼だ。

……で、結局、なんなんだ? 「金物の鬼」って。
英訳すると「SPK」とか「ノイバウテン」とかか?(ノイバウテンは英語じゃないだろ)。

実際、金物をつくる職人さんの世界には「鬼気」が漲っている。
僕の父親はかつて鋼球をつくる工場で働いていたが、往時は環境が劣悪で、工場のなかが尋常ならざる高温になったという。
衣服に炎が燃え移っても気づかずに仕事を続けていた作業員が何人もいたほど。
また、炎が燃え移った場合に飛び込むための風呂桶が、あたりまえのように設置されていたのだそう。

すべての職人さんの世界は厳しいが、金属加工の世界は格別だろう。
取材で彫金、鋳金などさまざまなジャンルの打物師(金属加工職人)と出会ったが、一枚の金属板を金槌で叩いて叩いて叩きまくり、鍋や湯さしをつくりあげてしまう「鍛金」の工房で見た光景は、そらもうヘヴィ・メタルだった。
鬼の形相で、一心不乱に何度も何度も打ちつける。
すべてが目測。
全力と冷静が、火花を散らすようにせめぎあう。

僕は職人さんに「こういう世界って、10年修行しないと一人前にはなれないんですよね?」と尋ねた。
すると職人さんは、笑顔でこう答えた。
「いや、10年経って、やっとむいてるかむいてないか、わかるんや」。

訊けばこの職人さん、工房をたちあげる前は大手調理器具店の打物師として50年間も働いていたという。

50年で、やっと独り立ち……。
鋼の錬金術師、一日にして成らず。
まさに鬼の執念。
そら来年の話レベルじゃ、鬼も苦笑するよりほかないわな。

吉村智樹へのメールはこちら

by yoshimuratomoki | 2010-03-21 23:08 | 大阪府