ろくでなしBLUES

 きのう、僕は仕事で東京メトロ東西線『神楽坂』駅を降り、早稲田通りをとほとほ徒歩っていた。

「腹へった……」。朝から何も食べていない。しかし高級料亭街ゆえ、安く食べられるランチスポットがまったく見当たらない。いま食べたいのはハンバーグや生姜焼き定食、そういった“ありがちランチ”なのに。この街には、そんなありがちが、ないがちなのだ。

 おなかと背中がコラボしそうになったとき、「定食屋だ!」。やっと、やっとオアシスを見つけた。助かった~。

 しかし、どうも看板が気になる。

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 『ろくでなしの くま

 ろくでなし? このかわいらしいベアが?

 そして店の上には、さらにとどめを刺すような看板が。

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 『ろくでもない喰いもの屋 くま

 ろくでもない……。ということは、NANAでもないわけだ(検索に引っかかりやすいよう、流行ってる言葉を入れてみました)。しかし「ろくでもない喰いもの」とはいったい。すべての食べ物がハチミツのみで味つけされてるとか?

 とはいえもう躊躇している余裕などない。なんか食わなきゃ二足歩行が不可能なほどレッドゾーン。変な食べ物が出てきたら、死んだふりするまでよ。

 覚悟を決めて店に入ると、「」。超満員。大人気だ。そして頼んだ生姜焼き定食がンまいのなんの。生姜焼きオブザイヤー。特に小鉢についてきた大根と豚の煮物、ダシが絶妙に沁みていて、もう、もう。

 こんなに美味しいのに、なにがろくでもないのだろう。僕はご主人に店名の理由を訊いた。するとご主人、寂しく笑いながら、こう答えた。

 「俺がろくでなし……だからサ

 そして笑いながらも「もうこれ以上、聞くな」と眼の奥で語ってきた。ラジャー。これ以上、なにも聞くまい。これまで、いろいろあったんだろう。目の下にクマをこさえる夜が、何日も。

 なんだかお腹だけでなく、胸もいっぱいに。満腹、満胸。もしかしたらこの店、かつて清水健太郎が歌った失恋レストランだったのかも(吉村智樹)。

吉村智樹が無責任編集 おしゃべりWEBマガジン『日刊 耳カキ』。
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by yoshimuratomoki | 2005-09-15 14:16