マルティプライス

 8月は大阪ネタ月間です。

 大阪人は店で、すぐ値切る。これはケチだからではない。「値切る」という、庶民のコミュニケーションなのだ

 ……なんていう大阪論がまことしやかに語られた時代があった。これは当たっているし、当たっていない。「かつては、そうだった」のだ。店側が客に値切られることを前提として価格設定ができた、好景気時代の話。

 いま値切りに応じる店は、大阪にもほとんどないだろう。例えば往時は「値切りの聖地」であった日本橋(東京の日本橋と違い、『にっぽんばし』と発音する)。東の秋葉原、西の日本橋と並び称される一大電気街だ。ここでは、かつては値切って買うのが当たり前だった。

 しかし家電の販路が郊外型チェーンに移り、どの店もディスカウントの統一価格となった。値切って買う習慣は、ここでは通用しない。

 そして日本橋は家電街からパソコン街に姿を変えた。どこに行っても同じ物が売られているため、過当競争で値段がどんどんさがっていく。値切りに応じようにも、もともとが底値なのだ。知人がかつての慣習のまま従業員に「兄ちゃん、ちょっとまけてーな」と気軽に言ったところ、「お客さん、いま平成ですよ!」とキレられたという。まるで南海キャンディーズ山ちゃんのように。そんなだから、いまは値切りに変わって「オマケつけ」が主流。グリコ状態である。

 値切りは好況時代の遺物。これは阪堺電軌阪堺線『今船』駅にほど近い店。店がこんなふうに逆ギレするのも、わからなくもないのである。

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吉村智樹が無責任編集 おしゃべりWEBマガジン『日刊 耳カキ』。
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by yoshimuratomoki | 2005-08-18 11:37