暗闇でトックリ!

 一昨日、コラムのなかで「秋だというのに蒸し暑い」と書いたら、たった2日で一気に気温がさがった。朝など寒さに震えて目を醒ましたほどだ。気候の変化が急すぎて、携帯電話の新機種発売なみについていけない。

 寒い季節は、燗酒がンマい。ビールもいいが、日本酒で焼き魚なぞつまむのも、また格別だ。

 燗酒といえば、こんな想い出がある。おれはむかし、某巨大居酒屋でウエイターの仕事をやっていた。おれの担当は燗酒をつくる「お燗番」。看板娘、いや燗番息子だ。

 とはいえメインはウエイターなので、お燗所につきっきりでいるわけにもいかない。なんせ3階建ての巨大居酒屋、人手は常に足らないのだ。日本酒を徳利に注ぎ、熱湯にひたしたままで放ったらかし。注文聞きやお運びなどで各テーブルをまわり、お燗所に帰ってきた頃には日本酒はグツグツ煮えたぎっている。湯気はもうもう。いまにも湯気の向こうから得体の知れないアラビアの大魔神が出てきそうなほどの沸騰地獄。

 当然そんな熱燗にもほどがあるヒートアップ液体など誰も飲めない。飲めば火傷必至。それにアルコール分はすっかり飛んでしまっているだろう。二級酒を沸騰させてるから、ワケのわからない化学反応があるやも知れない。

 そこで、徳利に冷や酒を注ぎ足して客に持っていくのだ。酷いもんである。なかには「ヒレ酒」の注文もある。ふぐのヒレを網に乗せ、炭火でこんがり焼いて……、なんて悠長なことはトーゼンしてはいられない。ガスバーナーで一気にまとめて焼くのだ。そんなガスくさいヒレを、いったん煮えたぎった酒にポイッと入れて客に運ぶ。冷や酒を注ぎ足してるから飲めない温度ではないが、味のひどさは推して知るべし。お燗ならぬ悪寒が走る。しかし客は「ンマい! この店はワカッテルね。ツウはヒレ酒をぬる燗で飲むんだよ」と上機嫌。それ以来、おれは日本酒の味うんぬんを口にする人を、イマイチ信用しないのである。

 そんなことを思い出したり思い出さなかったりしながら、都営三田線『板橋区役所前』という、まるでバス停みたいな名前の駅前を歩いたときのこと。陽はトックリと暮れ、シャッターの降りた商店街のなかに、なんだかわからない白い物体が集まっているのが浮かんで見えた。

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 それは大量の徳利だった。徳利が捨てられ、「ご自由におもちください さしあげます」と書かれている。どこかの小料理屋さんが店を閉めるのだろうか、徳利だけが堆く積まれているのだ。いや、お持ちくださいといわれても、正直いらんだろコレ。家庭でもわざわざ徳利で燗をつける家など、いまはめったにないはず。洗うのも不便だし。

 とはいえ、せっかく「さしあげます」と言ってくれてるのに無下に断っては男がすたる。というわけで、うちにぜんぶ持って帰ってきたわけだが、使いみちがない。

 とりあえず10本づつ並べて、ボーリング場でもはじめようかと思っている


*10月16日(土)、僕が日頃撮り集めているVOW系おもしろ写真の上映会をやります。街がいさがしでも紹介した写真、未発表の新作など200連発! 生コメントでブチかまします。

 題して『吉村智樹のひとりVOW! ~街がいさがし~

 場所は新宿ロフトプラスワン。ぜひ遊びに来てくださいね。

 詳しくはココをクリック。

by yoshimuratomoki | 2004-09-28 22:23