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カテゴリ:欧文組版のマナー実例( 12 )
大文字で書くこと = 怒鳴ること

アメリカ大統領選挙が始まる前から終わって結果の出た後も、この10日間くらいはドイツでもトランプ大統領のニュースから始まることが続いていました。彼の独特な言動が物議をかもすことが多いからです。

先日ニュースを見ていたら、テロップに「トランプが大文字でツイート(Trump twittert mit Großbuchstaben)」と出ました。大文字で書いただけでニュース? いや、ドイツ語には「特に重要なこととする」を「大文字で書く」という言い回しがありますが、このニュースの見出しは意訳すると「ツイッターで怒鳴り散らしている」ということ。

慌ててそのテロップの出ている画面の写真を撮ろうと思ったけど遅かった。なのでこれは同じニュースチャンネルの別の画面ですが、要するに大文字で書くとこんな感じに見える。

大文字で書くこと = 怒鳴ること_e0175918_05485020.jpg

11月5日にオンラインで開催された Type& 1日目の講演で、ドイツ在住のタイポグラファー麥倉さんも、日本では英文の文章の一部で人名や社名などを全部大文字にすることがあるけれど、欧米ならば組版の素人でもそんな間違いはしない、と言っていました。

さて、待望の日本語版の出た『私の好きなタイプ 話したくなるフォントの話』では、催促のメールを全部大文字で書いて送ってしまったためにとんでもないことになった人の実話が出ています(第二章「大文字の大罪」)。

この本の「はじめに」までは ここ で無料で公開されています。本の詳細と目次をご覧になりたい方は こちら をどうぞ。



by type_director | 2020-11-16 18:28 | 欧文組版のマナー実例 | Comments(0)
欧文組版のマナー実例: イタリック体(2)
ローマン体(まっすぐ立った書体)で組んである文章の中にイタリック体が混じることがあります。一般的によく使われるイタリック体の用法を、実際の書籍から拾ってみました。
下の二つは、書籍や定期刊行物のタイトルです。
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上の例は Tim Ingold 著『Lines』で、ちょっとコンデンス気味のイタリック体を持つこの書体は Joanna です。下の例は Tor Nørretranders 著『The User Illusion: Cutting Consciousness Down to Size』です。書体は ITC New Baskerville です。

動物や植物の学名(ラテン語)もイタリック体で組みます。動植物は通俗の名称と学名とが違うことが多いので、一般の読者向けの本では、俗名(この場合 Tigermücke)を最初に書いて、その次にカッコの中に学名を入れることが多いです。
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上の例は André Mégroz 著『Silberfischchen, Lilienhähnchen und andere Insekten』です。書体は Frutiger Serif です。





by type_director | 2020-07-15 01:42 | 欧文組版のマナー実例 | Comments(0)
欧文組版のマナー実例: 単語をかたまりで捉えて読む

ラテンアルファベットを使った英語などの文章を読むとき、読み手は一文字ずつ読んでいるのではない、ということを、私の著書などで書いています。長い文章を読むときは、小文字の適度な凸凹がつくる単語の輪郭が判別の手助けになって、単語をかたまりで捉えて速く読み進むことができます。なので、長い文章を全部大文字で組んだり、小文字同士の間隔を開けすぎたりすることも輪郭をわかりにくくさせるので、読むスピードがかなり落ちます。

下は、Tor Nørretranders 著『The User Illusion: Cutting Consciousness Down to Size』です。

この前段の内容を要約すると、心理学者ジョージ・A・ミラーが定期刊行物『サイコロジカル・レビュー』で発表した論文では、人間が同時に認識できるのはだいたい7個が限界で、それ以上のものを理解しようとする場合は一つのまとまりとして捉えるのだそうです。

欧文組版のマナー実例: 単語をかたまりで捉えて読む_e0175918_03545002.jpg

それを受けて、ここで何が書かれているか見てみましょう。この本の日本語版、トール・ノーレットランダーシュ著『ユーザーイリュージョン:意識という幻想』があるので、そこから同じ部分を引用します。

「たとえば前の段落に出てきた『まとまり』という語だが、読者は、最初に読み方を学んでいたときのように『ま・と・ま・り』とぶつぎれにして読みはしなかっただろう。一つの独立したまとまりとして読んだはずだ。」

そして、この記事で見ている英語版の方には、これを裏付ける興味深い仕掛けがしてあります。この段落の最後、丸括弧で括った部分の前の単語でわざと誤植をしておいて、「まとめて読むからこそ、誤植に気づかないのだ。」と書いています。実際私も気づきませんでした。その単語は、正しくは manuscript なのですが、r がなくても単語の形や長さに大きな変化がないので気づきにくいのでしょう。同じ一文字でも、もし p がなかったら単語の輪郭が大きく変わるのですぐに気づくはずです。

この、書体デザインやタイポグラフィと直接関係なさそうな本に書かれていることが、読み手は文字をひとつずつ読むのではなくて単語の輪郭を手がかりにしている、ということの裏付けになったと思います。

ちなみに、昨年夏の青山ブックセンターの選書フェア「100人がこの夏おすすめする一冊 2019」で、この日本語版を推薦いたしました。



by type_director | 2020-06-29 04:16 | 欧文組版のマナー実例 | Comments(0)
欧文組版のマナー実例: ダーシはハイフンと違う(3)

前に、「ダーシはハイフンと違う」の(2)にいただいたご質問に対して、回答をふたつしました。

回答1:en dash (半角ダーシ)と em dash(全角ダーシ)の使い分けについては、以下のヨースト・ホフリ著『ディテール・イン・タイポグラフィ』の説明が簡潔でわかりやすいので引用します。

en ダーシは、フレーズどうしがつながっていることや省略を示すのに使われたり、挿入節に用いられたりする。なお、一部の英語組版の慣習、特にオックスフォード大学出版局のルールやアメリカ英語一般においては、em ダーシ(ただし前後にスペースは挿入しない)を用いることが標準とみなされる。」(40ページ)

ここで例に挙げた『Printing Types』は、オックスフォード大学出版局の本で、アメリカで出版されています。出版社のハウスルールなどによって違いがあるかもしれません。

回答2;ホフリさんの本のドイツ語版には、em ダーシは今日のドイツ語の組版ではほとんど使われない、と書いてありますから、言語によってはダーシの使われ方に差があることもわかりました。(以下略)


下は、Tor Nørretranders 著『The User Illusion: Cutting Consciousness Down to Size』です。補足説明の em ダーシをスペースなしで使っていますが、ペンギン・ブックスのペーパーバック版です。書体は ITC New Baskerville です。

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これまで、ハイフンとダーシの違いの例を見せるとき、おもにダーシの方に注目してきましたが、ここでハイフンのほうもみてみましょう。

章の始まり「E-n-t-i-t-y」をハイフンで区切っていますが、これもハイフンの使い方のひとつです。これは、わざと一文字ずつ読ませようとしているのです。日本語だったらこういう場合は中黒(なかぐろ、・)を使って区切りたいところです。

日本語版(トール・ノーレットランダーシュ著『ユーザーイリュージョン:意識という幻想』)では、「ま・と・ま・り」となっていました。

この文章の内容について、この次に別の記事を書きます。



by type_director | 2020-06-29 04:11 | 欧文組版のマナー実例 | Comments(0)
欧文組版のマナー実例: 略語を目立ちすぎないように抑えた例(2)
そして、スモールキャップとは別の方法で略語を目立たなくしている例。略語の部分だけ少し小さいサイズにしています。
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André Mégroz 著『Silberfischchen, Lilienhähnchen und andere Insekten』から見つけました。書体は Frutiger Serif です。

本の装丁はヨースト・ホフリさんで、彼の本ディテール・イン・タイポグラフィの中でも、本文よりも0.5ポイントから1ポイント小さいサイズで組む方法がスモールキャップの使い方などと並んで紹介されています。



by type_director | 2020-06-27 17:01 | 欧文組版のマナー実例 | Comments(0)
欧文組版のマナー実例: 略語を目立ちすぎないように抑えた例

このシリーズ最初のこの記事で書いた内容で反響の大きかったのは、この IKEA という単語の表記にスモールキャップを使って目立ちすぎないように抑えていた件です。Helen Armstrong 編『Graphic Design Theory』の本文の組版。

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下は、Christopher BurkeEric KindelSue Walker 編Isotype: Design and Contexts 1925–1971の背表紙。上から二行目、略語で USSR、USA を組んでいますが、サンセリフ体 Fakt のスモールキャップを使っています。

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by type_director | 2020-06-22 00:59 | 欧文組版のマナー実例 | Comments(0)
欧文組版のマナー実例: イタリック体

この「欧文組版のマナー実例」2回目の この記事 で紹介した、ファッション誌『Vogue』の表紙だけを集めた本『Vogue Covers』の解説の本文一行目、このようにまっすぐ立った書体で組まれている中に定期刊行物の名前「Vogue」が出てきたら、それはイタリック体で組みます。そして、この写真右下にあるのはキャプションで、本分と区別しやすいようにイタリック体で組まれています。

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では、そのキャプションの文章全体がイタリック体で組まれているときに、定期刊行物の名前など本来イタリックで組むべき語句が出てきたらどうするのでしょうか。

その場合は、この下のキャプション一行目「Vogue」がそうしているように、まっすぐ立った書体のほうを使います。

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要するに、通常の語句ではない何かがあると読者が感じるくらいの違いは見せるけれど、いわゆる悪目立ちするようなもの、たとえば全部大文字にしてしかも引用符で囲むようなリズムを壊すことはしないのです。


by type_director | 2020-06-17 01:45 | 欧文組版のマナー実例 | Comments(0)
欧文組版のマナー実例: ダーシはハイフンと違う(2)

さらに、ハイフンとダーシの例です。

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一行目は Cobden-Sanderson という人の姓です。この本の著者は Daniel Berkeley Updike ですが、この場合「Berkeley」は姓でなくミドルネームなので、その次の「Updike」とハイフンでつなぐことはありません。

そして、脚注の一行目と二行目の長い横棒はダーシで、補足説明に使っています。

上の例は Daniel B. Updike 著『Printing Types, Their History, Forms, and Use; A Study in Survivals』第二巻からです。1960年代の書籍なので、使用書体は金属活字の Monticello ですが、ありがたいことにマシュー・カーターさんがデジタル化してくれています。デジタル版は こちら



by type_director | 2020-06-14 03:20 | 欧文組版のマナー実例 | Comments(6)
欧文組版のマナー実例: ダーシはハイフンと違う

ハイフンの使い方は、行の終わりにぴったり収まらない単語を途中で切って次行に送るときに使うほか、二つの単語を一つにするときにも使います。

この下の例で出てくる semi-transparent (半透明の)や upside-down (上下逆さまの)などです。

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この例の「film – to」にある横棒は、ハイフンより長いです。これはダーシ(ダッシュ)です。同じ横棒でも、ダーシには、ハイフンとは全く別の役割があります。ここでは、ダーシは前の文章の補足説明になっています。

そのほか、日本で見かける英文で誤用が多いのは、「から…まで」や記号「〜」の意味になる部分でハイフンで代用しているものですが、本来はダーシを使います。たとえばこの下の例なら、「69 から72ページまで」というです。ここでダーシの代わりにハイフンにしてしまうと、「69 の 72」になります。

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この2つの例は Richard L. Gregory 著 『Eye and Brain: The Psychology of Seeing』で、書体は Times New Roman です。

もう少し「から…まで」の例をあげます。最後の行、ある昆虫の標準的な体長を表している解説文で「25 から33 mm まで」。その上の二行では、文末で単語を分けたことを示すハイフンがあるので、太さや長さの違いが確認できます。

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そして、人の名前で、二つ繋がった苗字を表す場合はハイフンです。ここでは、ミュラー・ルッツという姓を持つひとりの人です。生没年の「1854 から1944 まで」はダーシを使っています。
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この2つの例は、André Mégroz 著『Silberfischchen, Lilienhähnchen und andere Insekten』から見つけました。書体は Frutiger Serif です。アドリアン・フルティガーさんと私との共同プロジェクトです。本の装丁は、名著ディテール・イン・タイポグラフィ』のヨースト・ホフリさんです。見事に使ってくださってうれしいです。

このハイフンとダーシの違いをはじめ、英文の表記で気を付けておきたい点については、本『英文サインのデザイン』(私と田代眞理氏との共著)に詳しく書いています。







by type_director | 2020-06-12 21:42 | 欧文組版のマナー実例 | Comments(0)
欧文組版のマナー実例: ロゴを文中で再現しない(3)

一つ前の記事で見た『Vogue Covers』の解説文、各図版のクレジット部分の文中でも、有名ブランドの表記を GUCCI、GIVENCHY、VERSACE などとせず、大文字と小文字で標準表記にしています。いずれのブランドも、ロゴそのものは全部大文字です。

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文中に出てくるときは、文章ブロックのトーンを乱さないように、読みやすいようにという配慮でそうするのです。これで、企業やブランド名を全部大文字で表記しないが当たり前だということがわかりました。

では、ブランドのロゴが全部小文字だったら?

Miranda July 著の短編小説集『No One Belongs Here More Than You』を見ます。

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ここでは、Adidas と大文字で始めています。この最初の大文字は、その単語が固有名詞であると分からせるために必要です。あとは小文字にしています。本文書体は Bembo です。

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このように、読みやすさということを考えたら、大文字と小文字の標準表記が普通なのです。

ロゴに合わせて全部大文字にしたり全部小文字にしたり、それらが入り混じってしまったりしたらとんでもない組版になってしまいます。




by type_director | 2020-06-09 19:28 | 欧文組版のマナー実例 | Comments(2)