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カテゴリ:欧文組版のマナー実例( 9 )
欧文組版のマナー実例: イタリック体(2)
ローマン体(まっすぐ立った書体)で組んである文章の中にイタリック体が混じることがあります。一般的によく使われるイタリック体の用法を、実際の書籍から拾ってみました。
下の二つは、書籍や定期刊行物のタイトルです。
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上の例は Tim Ingold 著『Lines』で、ちょっとコンデンス気味のイタリック体を持つこの書体は Joanna です。下の例は Tor Nørretranders 著『The User Illusion: Cutting Consciousness Down to Size』です。書体は ITC New Baskerville です。

動物や植物の学名(ラテン語)もイタリック体で組みます。動植物は通俗の名称と学名とが違うことが多いので、一般の読者向けの本では、俗名(この場合 Tigermücke)を最初に書いて、その次にカッコの中に学名を入れることが多いです。
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上の例は André Mégroz 著『Silberfischchen, Lilienhähnchen und andere Insekten』です。書体は Frutiger Serif です。





by type_director | 2020-07-15 01:42 | 欧文組版のマナー実例 | Comments(0)
欧文組版のマナー実例: 単語をかたまりで捉えて読む

ラテンアルファベットを使った英語などの文章を読むとき、読み手は一文字ずつ読んでいるのではない、ということを、私の著書などで書いています。長い文章を読むときは、小文字の適度な凸凹がつくる単語の輪郭が判別の手助けになって、単語をかたまりで捉えて速く読み進むことができます。なので、長い文章を全部大文字で組んだり、小文字同士の間隔を開けすぎたりすることも輪郭をわかりにくくさせるので、読むスピードがかなり落ちます。

下は、Tor Nørretranders 著『The User Illusion: Cutting Consciousness Down to Size』です。

この前段の内容を要約すると、心理学者ジョージ・A・ミラーが定期刊行物『サイコロジカル・レビュー』で発表した論文では、人間が同時に認識できるのはだいたい7個が限界で、それ以上のものを理解しようとする場合は一つのまとまりとして捉えるのだそうです。

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それを受けて、ここで何が書かれているか見てみましょう。この本の日本語版、トール・ノーレットランダーシュ著『ユーザーイリュージョン:意識という幻想』があるので、そこから同じ部分を引用します。

「たとえば前の段落に出てきた『まとまり』という語だが、読者は、最初に読み方を学んでいたときのように『ま・と・ま・り』とぶつぎれにして読みはしなかっただろう。一つの独立したまとまりとして読んだはずだ。」

そして、この記事で見ている英語版の方には、これを裏付ける興味深い仕掛けがしてあります。この段落の最後、丸括弧で括った部分の前の単語でわざと誤植をしておいて、「まとめて読むからこそ、誤植に気づかないのだ。」と書いています。実際私も気づきませんでした。その単語は、正しくは manuscript なのですが、r がなくても単語の形や長さに大きな変化がないので気づきにくいのでしょう。同じ一文字でも、もし p がなかったら単語の輪郭が大きく変わるのですぐに気づくはずです。

この、書体デザインやタイポグラフィと直接関係なさそうな本に書かれていることが、読み手は文字をひとつずつ読むのではなくて単語の輪郭を手がかりにしている、ということの裏付けになったと思います。

ちなみに、昨年夏の青山ブックセンターの選書フェア「100人がこの夏おすすめする一冊 2019」で、この日本語版を推薦いたしました。



by type_director | 2020-06-29 04:16 | 欧文組版のマナー実例 | Comments(0)
欧文組版のマナー実例: ダーシはハイフンと違う(3)

前に、「ダーシはハイフンと違う」の(2)にいただいたご質問に対して、回答をふたつしました。

回答1:en dash (半角ダーシ)と em dash(全角ダーシ)の使い分けについては、以下のヨースト・ホフリ著『ディテール・イン・タイポグラフィ』の説明が簡潔でわかりやすいので引用します。

en ダーシは、フレーズどうしがつながっていることや省略を示すのに使われたり、挿入節に用いられたりする。なお、一部の英語組版の慣習、特にオックスフォード大学出版局のルールやアメリカ英語一般においては、em ダーシ(ただし前後にスペースは挿入しない)を用いることが標準とみなされる。」(40ページ)

ここで例に挙げた『Printing Types』は、オックスフォード大学出版局の本で、アメリカで出版されています。出版社のハウスルールなどによって違いがあるかもしれません。

回答2;ホフリさんの本のドイツ語版には、em ダーシは今日のドイツ語の組版ではほとんど使われない、と書いてありますから、言語によってはダーシの使われ方に差があることもわかりました。(以下略)


下は、Tor Nørretranders 著『The User Illusion: Cutting Consciousness Down to Size』です。補足説明の em ダーシをスペースなしで使っていますが、ペンギン・ブックスのペーパーバック版です。書体は ITC New Baskerville です。

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これまで、ハイフンとダーシの違いの例を見せるとき、おもにダーシの方に注目してきましたが、ここでハイフンのほうもみてみましょう。

章の始まり「E-n-t-i-t-y」をハイフンで区切っていますが、これもハイフンの使い方のひとつです。これは、わざと一文字ずつ読ませようとしているのです。日本語だったらこういう場合は中黒(なかぐろ、・)を使って区切りたいところです。

日本語版(トール・ノーレットランダーシュ著『ユーザーイリュージョン:意識という幻想』)では、「ま・と・ま・り」となっていました。

この文章の内容について、この次に別の記事を書きます。



by type_director | 2020-06-29 04:11 | 欧文組版のマナー実例 | Comments(0)
欧文組版のマナー実例: 略語を目立ちすぎないように抑えた例

このシリーズ最初のこの記事で書いた内容で反響の大きかったのは、この IKEA という単語の表記にスモールキャップを使って目立ちすぎないように抑えていた件です。Helen Armstrong 編『Graphic Design Theory』の本文の組版。

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下は、Christopher BurkeEric KindelSue Walker 編Isotype: Design and Contexts 1925–1971の背表紙。上から二行目、略語で USSR、USA を組んでいますが、サンセリフ体 Fakt のスモールキャップを使っています。

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by type_director | 2020-06-22 00:59 | 欧文組版のマナー実例 | Comments(0)
欧文組版のマナー実例: ダーシはハイフンと違う(2)

さらに、ハイフンとダーシの例です。

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一行目は Cobden-Sanderson という人の姓です。この本の著者は Daniel Berkeley Updike ですが、この場合「Berkeley」は姓でなくミドルネームなので、その次の「Updike」とハイフンでつなぐことはありません。

そして、脚注の一行目と二行目の長い横棒はダーシで、補足説明に使っています。

上の例は Daniel B. Updike 著『Printing Types, Their History, Forms, and Use; A Study in Survivals』第二巻からです。1960年代の書籍なので、使用書体は金属活字の Monticello ですが、ありがたいことにマシュー・カーターさんがデジタル化してくれています。デジタル版は こちら



by type_director | 2020-06-14 03:20 | 欧文組版のマナー実例 | Comments(6)
欧文組版のマナー実例: ダーシはハイフンと違う

ハイフンの使い方は、行の終わりにぴったり収まらない単語を途中で切って次行に送るときに使うほか、二つの単語を一つにするときにも使います。

この下の例で出てくる semi-transparent (半透明の)や upside-down (上下逆さまの)などです。

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この例の「film – to」にある横棒は、ハイフンより長いです。これはダーシ(ダッシュ)です。同じ横棒でも、ダーシには、ハイフンとは全く別の役割があります。ここでは、ダーシは前の文章の補足説明になっています。

そのほか、日本で見かける英文で誤用が多いのは、「から…まで」や記号「〜」の意味になる部分でハイフンで代用しているものですが、本来はダーシを使います。たとえばこの下の例なら、「69 から72ページまで」というです。ここでダーシの代わりにハイフンにしてしまうと、「69 の 72」になります。

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この2つの例は Richard L. Gregory 著 『Eye and Brain: The Psychology of Seeing』で、書体は Times New Roman です。

もう少し「から…まで」の例をあげます。最後の行、ある昆虫の標準的な体長を表している解説文で「25 から33 mm まで」。その上の二行では、文末で単語を分けたことを示すハイフンがあるので、太さや長さの違いが確認できます。

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そして、人の名前で、二つ繋がった苗字を表す場合はハイフンです。ここでは、ミュラー・ルッツという姓を持つひとりの人です。生没年の「1854 から1944 まで」はダーシを使っています。
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この2つの例は、André Mégroz 著『Silberfischchen, Lilienhähnchen und andere Insekten』から見つけました。書体は Frutiger Serif です。アドリアン・フルティガーさんと私との共同プロジェクトです。本の装丁は、名著ディテール・イン・タイポグラフィ』のヨースト・ホフリさんです。見事に使ってくださってうれしいです。

このハイフンとダーシの違いをはじめ、英文の表記で気を付けておきたい点については、本『英文サインのデザイン』(私と田代眞理氏との共著)に詳しく書いています。







by type_director | 2020-06-12 21:42 | 欧文組版のマナー実例 | Comments(0)
欧文組版のマナー実例: ロゴを文中で再現しない(3)

一つ前の記事で見た『Vogue Covers』の解説文、各図版のクレジット部分の文中でも、有名ブランドの表記を GUCCI、GIVENCHY、VERSACE などとせず、大文字と小文字で標準表記にしています。いずれのブランドも、ロゴそのものは全部大文字です。

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文中に出てくるときは、文章ブロックのトーンを乱さないように、読みやすいようにという配慮でそうするのです。これで、企業やブランド名を全部大文字で表記しないが当たり前だということがわかりました。

では、ブランドのロゴが全部小文字だったら?

Miranda July 著の短編小説集『No One Belongs Here More Than You』を見ます。

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ここでは、Adidas と大文字で始めています。この最初の大文字は、その単語が固有名詞であると分からせるために必要です。あとは小文字にしています。本文書体は Bembo です。

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このように、読みやすさということを考えたら、大文字と小文字の標準表記が普通なのです。

ロゴに合わせて全部大文字にしたり全部小文字にしたり、それらが入り混じってしまったりしたらとんでもない組版になってしまいます。




by type_director | 2020-06-09 19:28 | 欧文組版のマナー実例 | Comments(2)
欧文組版のマナー実例: ロゴを文中で再現しない(2)

企業やブランドのロゴが全部大文字だったら文中でもその通りに、という奇妙な組み方は日本でだけ見られる奇妙な習慣(?)です。

「ロゴの表記のとおり大文字にするのがマナー」とか「そうしないとクライアントにダメ出しされる」のように思われているかもしれませんが、実際はどうでしょうか。

これは、ファッション誌『Vogue』の表紙だけを集めた本『Vogue Covers』(Robin Derrick, Robin Muir 編)です。『Vogue』の表紙といえば、おなじみのこの5文字の大文字 VOGUE です

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中の解説文では、Vogue としています。ただし、定期刊行物のタイトルなので一般的な組版ルールにしたがってイタリック体で書かれています。フォントは Gotham

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まあ厳密にいえば雑誌タイトルはロゴとは言えないかもしれませんが、どう見えるかが勝負のファッション誌は、「大文字でないとダメ」なんて言わないのです。逆に、VOGUE の5文字だけ大文字で表記して本文組が不格好で読みにくくなることは許せないでしょう。

ちなみに、イタリック体は、書籍や雑誌などの定期刊行物、映画のタイトル、馴染みのない言語の単語、植物や動物のラテン語の学名などを表記するとき、または語句の強調のときに使います。これについてはまた別の機会に書くことにします。




by type_director | 2020-06-09 03:54 | 欧文組版のマナー実例 | Comments(0)
欧文組版のマナー実例: ロゴを文中で再現しない

前に この記事 に載せた『デザインノート』で欧文組版のマナーについて書いた記事、ためになった、評判が良い、という反響をあちこちから聞きました。

記事の最後のほうで、「たくさんの欧文組版をよく見てください」というアドバイスをしています。「英文をすらすらと読めるようになる必要はありません」ともことわったうえですが、たくさん見ている組版のうちのどれを手本にしていいのかわからなくなるかもしれません。

そこで、私の記事に出てくる欧文組版の基本的マナーのうち、おすすめの組み方の例を見つけ次第ここに載せて、簡単な解説をつけていこうと思います。

これは、たまたま調べ物をしているときに手に取った、Helen Armstrong 編『Graphic Design Theory』から、本文の組版です。ちょっと個性的なフォントは FF Seria です。下から五行目を見てください。

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IKEA は、NATO などと同じくacronym(頭字語)なので全部大文字ですが、本文で目立ちすぎると判断したのでしょう。この本では、頭字語はすべてスモールキャップ(大文字の字形で、ほぼ小文字の高さのもの)を使っています。

そして、Starbucks は固有名詞なので、そのちょっと前の McDonald’s と同様に大文字と小文字で表記します。これが普通の読みやすい組み方です。


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もし、「スターバックスってロゴ全部大文字だよね、それに合わせよう」などと考えてこんなふうにしてしまったら…(サンプルのフォントは Stempel Garamond です)

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本文のリズムは台無しで、読者は読む気をなくしてしまうかもしれません。

記事に「文中に登場する場合、ロゴの表記を再現する必要はない。ロゴはあくまで図案化されたシンボルであり、文章にシンボルを入れ込むのはそもそも無理なことだ」とあります。企業やブランドの名前が出てきたら、ロゴが全部大文字でも、文中ではそれが頭字語などでない限り、最初の文字が大文字で後は小文字という書き方が自然です。

これからも、こういう例を見つけるたびに載せていきます。



by type_director | 2020-06-07 18:04 | 欧文組版のマナー実例 | Comments(0)