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一つ前の記事に載せた売店からそんなに離れていない場所に、もうひとつの古い売店があることを知り、きょう行ってきました。
ここには、昔のレタリングはありませんでしたが、「ハーナウを忘れるな」という言葉が売店にステンシルでスプレーされていました。
一年前の昨日2月19日、フランクフルトからそんなに遠くないハーナウ市で、人種差別的な考えを持つ43歳の単独犯に9人の命が奪われる事件があり、犯人はその後自分の母親も殺してから自害しています。
この事件の起きたハーナウ市では、ちょうど1年を迎えたきのう追悼の集会が開かれ、ドイツのニュース番組も長い時間を割いて追悼の特集を組んでいました。ニュース映像では、犠牲者のモニュメントのある広場に自発的に集まったと思われる市民が大勢いて、口々にインタビューに答えて、この悲劇を繰り返さないようにと訴えていました。
まさにドイツ全土が悲しみに包まれた、という日でした。
ハーナウ市とは別の場所にあるこの売店の向こう側の広場は、ドイツの哲学者カントの名前がつけられていて、カントの言葉を刻んだモニュメントも立てられています。
住宅街の中に降りた UFO のような建物、これは1950年代頃に建てられた売店です。おとといのニュースで取り上げられていたので、車でひさしぶりに高速を使って30分ほどのところへ行ってみました。
近寄ってみると、当時売られていた飲料水のレタリングがいい味出しています。
なんかロックダウンがずっと続いていると、出かけるのも家の周りの散歩だけではつまらなくなって、人ごみはないけれど面白いところに行ってみたくなる。でも、お店も何も空いていないのですぐに帰ってくることになります。
私の恩師、髙岡重蔵 氏が生まれたのが 1921年 1月18日だったので、ご存命だったらきょうでちょうど100歳。
100年というのは、長いのか短いのか。
20年前、私がドイツの Linotype 社からメールをもらい、ドイツでタイプディレクターとして仕事をしないかと持ちかけられ、ドイツ語も話せないのにどうしよう、など不安でいっぱいのときに重蔵氏に相談したら、軽く「あ、行けばいいよ」と言っていただいたのが決心につながりました。
『髙岡重蔵 活版習作集』をじっくり眺めます。どのページを見ても、欧州の印刷物の香りがする。しかもとびきり上等の。
思えば、重蔵氏には、日本も西洋も、国境も言葉の壁も、何にもなかったのかもしれない。そんなことを考えました。
一つ前の記事「自然が描く形」の下田さんとのやりとりのきっかけになったのは、田中さんという方からのコメントでした。グラフィックデザイナーでも書体デザイナーでもなく、ハンガリー刺繍のビデオをあげている方なのです。ビデオは こちら。
なんだか私の本『欧文書体のつくり方』が参考になったそうで、その田中さんの許可を得て、いただいたコメントを引用します。
「錯視のことと、克服の仕方、文字が複数連なったときの見え方、互いのバランスをここまで理路整然と述べた本は稀かと思います。」
錯視以外の部分でも、アルファベットの O は一筆書きのように見える形でも二回に分けて書いている、という点と、まるで一本の連続した線でできているように見える唐草模様を、糸が生地の間を出たり入ったりしながら何本もの短い線でしかもごく自然に見えるようにつないでいく刺繍の運針の方法とのあいだに共通点があるようです。カリグラフィーも刺繍も、材料の性質や道具を持つ方向などなどからくる制約を知って、無理の生じそうな部分を避けながら自然に見せているところが共通するんだと思います。
私は、これまで刺繍をしているところを直接見たことがなかったので、リンクをしたビデオでは「そこから始めるのか!」「結び玉はつくらないのか!」 など、いろいろ想像と全く違う展開にドキドキしました。
そういえば、窓の氷の模様も刺繍にも見える。
書体デザイン、カリグラフィー、そして刺繍というジャンルを超えたつながり、自然の造形と人の手のつくり出す形がますます面白い。
私の住んでいるアパートの最上階には、屋根の傾斜と同じ角度に窓があり、冬はその窓の外側に霜が降りて綺麗な模様を描くことがあります。
先週、雪の降った日の翌朝の朝日が差し込む時間に、その窓に綺麗な模様が描かれていました。黒っぽく見える点は、パラパラと降った細かい雪です。
これを、昨年の昨年の Type& オンライン講演でお話しいただいた、ロンドンでカリグラファーとしてお仕事されている下田恵子さんにお見せしました。たまたまその日メールのやりとりをしていたのです。
そうしたら、その日のうちにこんな返事をいただきました。下田さんの許可をいただいて引用します。
「オーナメンタルフロリッシュそのままですね!メインの線だけでなく、周りの産毛みたいな細い線まで。」カリグラフィーのカッパープレート・スクリプトなどの、文字から伸びたり文字以外の部分につけたりする飾り線に近い、というのです。
また、こうも書かれていました。「私の友人の絵描きが、自然のものを見て写生をしろ、と言うのもそこらへんなのかもしれません。綺麗だなと感じる字や線はこういうところに無理や違和感がないのかもしれないなと思いました。」
まったくそのとおりで、実際にこのあと下田さんはこの写真の模様を筆でスケッチしたそうです。こちらで、下田さんのお仕事が見られます。
年末年始でロックダウンのドイツ。「Kontaktbeschränkungen」(コンタクトの制限)、なるべく人との接触を避けましょうということがことがずっと言われています。
年末に、昨年秋から一人暮らしを始めた長男も加わって家族4人で家族が集まったときに、久しぶりにボードゲームで遊ぶか、と引っ張り出してきたこの「コンタクト・ゲーム」、すっかりハマってしまいました。
いまこれを遊ぶと、13年前とは別の面白さが出てきた。狭い家の小さなテーブルに収まるようにと頭を使い、もう二十歳を過ぎた子供達が「そっちに曲げちゃダメ」などと人の手に指図をするようになって大笑い。また、この小さなコマに描かれている絵が美しい。山あり川あり、古城や川を進むタンカーが見える風景がドイツだな、ということにも気づきました。
このゲームの発案者でグラフィックデザイナーでもあるケン・ガーランドさんの講演を、そうとは知らず2007年の英国ブライトンでの ATypI (国際タイポグラフィ協会)コンファレンス聴いていて、そのことを私が2008年の1月の日記 につけていた。14年前の講演の時のガーランドさんは、白いジャケットを羽織り、刺繍の入った四角い中東風の帽子をかぶって颯爽としていてかっこよかった。
ガーランドさんのサイト に、原案のゲームの図が出ています。こちら。
このゲームはドイツ製ですが、もともと私が買ったのでなく、弟からもらってドイツに持ってきたもの。ゲームの出版社が Ravensburger というドイツの出版社で、私の持っている何冊かのヤン・チヒョルトの本も出版していたりして、いろいろつながっているところが面白い。
パッケージに使われている書体も、時代を感じさせてくれます。黄色で「コンタクト・ゲーム」とあるのが写研のスーボ、その他小さい文字はナール。小文字で「contact」と書かれた部分は Futura Script をツメツメにしてつなげています。
ここドイツでもコロナ第二波の広がりへの懸念から、来年1月まで二回目のロックダウンが続くことが決まっています。
こないだの金曜日夕方、買い物のついでに街の目抜き通りはどうなっているだろうとのぞいてみました。
食料品店や薬局などを除く店舗はみんな閉めることになっているので、私の住んでいる街の中心部でも人がいません。金曜日午後4時過ぎでこんな様子です。
この化粧品店の入り口にはテープで X がされていました。
目抜き通りの中心部、噴水の広場にはイルミネーションがありましたが、それも人通りがないと寂しい感じです。毎年開かれるクリスマス市も、今年はありません。
お城の横の広場も、去年の12月21日の土曜日午後5時ははこんなふうに市が出ていて賑わっていたのですが…
今年はこうです。12月18日金曜日、ほぼ同じ時間。
クリスマスの時期、いつもなら看板には「クリスマス」の言葉が入るところですが、その代わりに書かれている言葉は「きみなしではダメなんだ!」という意味。協力を呼びかけてマスクの着用を徹底させる目的のようです。
「皆さん」でなく「きみ」「おまえ」というような単語を選んでいます。お役所的な通達でなく、ひとりひとりに届くようにインフォーマルな言葉で語りかけるという狙いなのでしょう。フォントもインフォーマルなデザインで、筆で書いたような雰囲気の Brushzilla を使っています。このフォントの名前のもとは、たぶん brush(筆)+ zilla(「ゴジラ」の「ジラ」)。大文字だけでオルタネート文字の多いフォントですが、下の方にある「MASKENPFLICHT」(マスク着用義務)という単語では、大文字アイに点のついたほうを使っています。
ドイツに引っ越してきてドイツ語を習い始めて間もない頃、電話での会話の練習をすることになって、そのとき初めて標準の Buchstabiertafel (文字を書き表すための表)があるというのを教わりました。
たとえば電話で自分の名前を相手に伝えようとするさいに、「Kobayashi」という音声だけではローマ字でどう書くかわからないかもしれないので、一文字ずつ区切って伝えることになります。でも、「K(カー)、O(オー)、B(ベー)A(アー)… 」と一文字ずつ言った場合、発音の似通っている H(ハー)と K(カー)などの違いがわかりにくいかもしれません。
その違いがはっきり音声で伝わるように、「K wie Kaufmann(カウフマンのカー)」とか「A wie Anton(アントンのアー) 」、などと決められています。つまり「Kobayashi」を言い表す場合は表の通りに「K wie Kaufmann、O wie Otto、B wie Berta、A wie Anton…」と言えば相手が聞き間違うことがない。
その文字表が DIN 5009 という規格で決まっていたのは、12月5日の このニュース を見て初めて知りました。書体デザインで DIN 1451 はすでに多くの人に知られていますが、この DIN というのはドイツの工業規格のことで、うしろに着く番号でたとえばマンホールの蓋だったりネジだったりの大きさなどの規格に分けられています。
さて、その DIN 5009 文字表では、A の Anton から M の Marie までは人の名前で言い表していますが、N にくると「N wie Nordpol(北極のエヌ)」となっていてちょっと違和感があるな、と思っていました。
じつは、1905年の文字表では D には David、N には Nathan という名前があてられていたのに、1934年のナチスドイツ時代の改訂で David と Nathan がユダヤっぽい響きの名前なので表から抹消され、Dora と Nordpol に変更されて戦後75年が過ぎていた、そしてそれを元に戻すというのが今度の DIN 5009 改訂のニュースです。過去の人種差別や偏見に歪められた文字表をそのままにしておかない、ということなのです。
ドイツのアルファベットには、ß という文字があって、「エスツェット」と呼ばれています。この道路名標示の最後から2番目の文字がそうです。
ギリシャ文字のベータではなく、発音も「s」になります。小文字 s をふたつ(縦に長い s と小さい s )続けた文字だったので、エスツェットはつねに小文字扱いだったのです。
2008 年の初めに、このエスツェットに大文字ができることになりました。 Unicode そして国際規格 ISO/IEC 10646 の文字コードを与えられ、正式に文字としての仲間入りをしたことは、当時ちょっとしたニュースになりました。多分ドイツでだけ。
その後、すべてのフォントにその大文字エスツェットを付け足す必要があり、どんな形がよいのか議論したりして仕事が急に増えたのを覚えています。
ただ、その後大文字エスツェットの使用例を見たことがまったくなかったのです。大文字の列の中に、こんなふうに小文字のエスツェットが入るのはいかにも素人っぽいし、見た目もよくありません。こういう場合は、2008 年より前ならば大文字の「SS」で置き換えるのが常識でした。
先月立ち寄った街でお土産屋さんを覗いてみたところ、このリキュールのラベルで目が止まりました。これこそ、12年目にして初めて出会った大文字エスツェット使用例!
ドイツ人の友人に見せたら、彼もそれまで見たことがなかったそうです。
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