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ワイマールでグドルン・ツァップ・フォン・ヘッセさんの足跡をたどる

ワイマールへは、ユネスコ文化遺産のアンナ・アマリア図書館に行くのが目的でした。そこで展示されているルーカス・クラーナハの絵画と豪華なロココ様式の建物を見て、あとはバウハウス博物館かな、というくらいで特に下調べもせずにいったのですが、思いがけずグドルン・ツァップ・フォン・ヘッセ(1918–2019)さんの足跡をたどる旅になりました。

グドルンさんは書体デザイナーとしても有名ですが、本の装丁家としても多くの素晴らしいお仕事をされた方です。グドルンさんの生前に度々ご自宅に伺い、彼女の装丁した書籍を手に取って眺めることができたのは私にとってとても貴重な経験です。

2週間以上晴天で夏日続きのドイツでしたが、三泊四日の旅行一日目が朝から雨で寒く、ワイマール到着後は町の中の散策は諦めてすぐにアンナ・アマリア図書館に行きました。まずクラーナハの絵画を鑑賞して、その後で図書館に。図書館は、開く時間と一度に入室観覧できる人数も決まっているらしく、次は40分後だというのでもう一度クラーナハをたっぷり堪能しました。

そしてようやく通された図書館。靴の上から大きなフェルト製のスリッパを履いて入るように言われて入室。中には係の人がいて、いきなりロココの部屋に通されるのでなく、最初の展示室に案内されます。そこで、ロココの部屋に入りたいときは言ってくださいと言われて、あとは自由に観覧できるようです。最初の展示室には、クラーナハ・プレスの本がガラスケースに展示されていました。その本には見覚えがあって、以前タイポグラフィ関係の本の図版を見たことがあり、挿絵がマイヨール作なのと扉の文字とイニシャルがエリック・ギル作だということは知っていたので、組版をじっくり見るつもりで近寄ってみました。

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そして解説を読んだら、装丁をしたのが Otto Dorfner (オットー・ドルフナー)と書いてありました。グドルンさんが最初に装丁の仕事を始めたのが彼の工房だったということは聞いていたので名前が目に留まったのですが、私が読んだタイポグラフィ関係の本には装丁家の名前まで書いていなかった。装丁をいろんな角度からじっくり鑑賞してみると、確かにグドルンさんの装丁に通ずるものがある。

このへんとか。写真が下手でわかりにくいです。興奮していて、とにかく自分の目で見ることを優先したため、写真の出来栄えとか気にする余裕がありませんでした。

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たぶん、普通はこのガラスケースの中の本はチラッとだけ見て、すぐにでもロココの部屋を見たい、ということになると思うのですが、私だけこの本のガラスケースにへばりついているので痺れを切らしたか、係の人は「準備ができたらロココの部屋にお入りください」と言い残して、先にロココの部屋に行ってしまいました。

これがロココの部屋。

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もちろんこの美しさに圧倒されているのですが、頭が半分くらいドルフナーさんとグドルンさんのことでいっぱいでした。

図書館を出てすぐにワイマールの町の観光案内所でドルフナー工房のことを尋ねたところ、工房の建物は使われていないけれど残されていることを知り、またドルフナーについての本が案内所の本売り場にあると教えてもらって買いました。本を読むと、ドルフナーはバウハウス学校でも装丁を教えているなど、その名前がワイマールの中ではグロピウス級の巨人に見えてきました。

これがワイマールで過ごした一日目でした。

二日目はその建物を見に行くことにしましたが、その前に前日の案内所で見つけたワイマールの小さな活版印刷所兼印刷博物館に行きました。

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古い活字のことをあれこれ尋ねたら、その印刷所の人も乗ってきてくれて、「たいていの訪問者には、『活字は鉛でできているけど、毒じゃないんだよ』みたいなとこから説明をするんだけど、あなたはプロだから活字の引き出しの中も見ていいよ」と言ってくれて嬉しそうでした。

そこでもいろいろ話をするうちに、なんとワイマール新博物館でドルフナーの装丁の展示がされていることも教えていただいたので、ドルフナー工房の建物はあと回しにして新博物館へ行き、じっくり鑑賞してきました。

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製本の工程や装丁の道具についての詳しい解説がされていました。製本のワークショップ用に使う教室もあります。ますますドルフナーさんと彼の工房の偉大さがわかってきました。

そして、その展示解説にあったこの写真。

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ドルフナーと学生たち、1930年頃」と書いてあります。右端に写っているのはグドルンさんじゃないか? と思いました。面影がある。

(旅から家に戻ってすぐ調べたら、グドルンさんのご親族の方から頂いた画像データに同じ写真がありました。すると、これは1934年の写真で、その年10月に製本工房の見習いとして働き始めた16歳のグドルンさんでしょう。)

そして、グドルンさんの足跡をたどる旅の締めくくりは、市内に残されているドルフナー工房の建物。

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現在は空き家になっていますが、ガラスに張り紙がしてあって、学生用の施設としてリノベーションされる予定と書いてありました。ここに、16歳から6年間グドルンさんが通い続けたことになります。

もうちょっと早くこのことを知っていたら…もっといろいろ調べていたら…と後悔の気持ちもありますが、逆に、下調べをせずにふらっと行った町で全く予想していなかった発見や出会いがたくさんあって、それが旅のワクワク感を100倍にしたとも言えます。この2年間くらいあまり出歩かなかったのですが、あらためて旅の面白さを実感しました。


by type_director | 2022-07-16 15:26 | Comments(0)
『欧文書体のつくり方』
小林章著
Book & Design 刊
欧文書体の第一人者によるフォントとロゴ制作の教科書。美しく読みやすい文字をつくるための基礎知識と考え方を解説。
 
プロフィール

小林 章
欧文書体で120年の歴史を持つライノタイプ社のタイプディレクターとして 2001年よりドイツに在住。同社は 2013 年 3月よりモノタイプ社と改称。主な職務は、書体デザインの制作指揮と品質検査、新書体の企画立案など。有名な書体デザイナーであるヘルマン・ツァップ氏やアドリアン・フルティガー氏と共同で書体制作も行っている。欧米や日本での講演多数、コンテストの審査員もつとめる。
著作:『欧文書体:その背景と使い方』『欧文書体2:定番書体と演出法』『フォントのふしぎ ブランドのロゴはなぜ高そうに見えるのか?』(いずれも美術出版社)『まちモジ:日本の看板文字はなぜ丸ゴシックが多いのか?』(グラフィック社) 『英文サインのデザイン:利用者に伝わりやすい英文表示とは?』(田代眞理氏との共著、BNN 新社) 『欧文書体のつくり方:美しいカーブと心地よい字並びのために』(Book & Design)
 
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