一つ前の記事「自然が描く形」の下田さんとのやりとりのきっかけになったのは、田中さんという方からのコメントでした。グラフィックデザイナーでも書体デザイナーでもなく、ハンガリー刺繍のビデオをあげている方なのです。ビデオは こちら。
なんだか私の本『欧文書体のつくり方』が参考になったそうで、その田中さんの許可を得て、いただいたコメントを引用します。
「錯視のことと、克服の仕方、文字が複数連なったときの見え方、互いのバランスをここまで理路整然と述べた本は稀かと思います。」
錯視以外の部分でも、アルファベットの O は一筆書きのように見える形でも二回に分けて書いている、という点と、まるで一本の連続した線でできているように見える唐草模様を、糸が生地の間を出たり入ったりしながら何本もの短い線でしかもごく自然に見えるようにつないでいく刺繍の運針の方法とのあいだに共通点があるようです。カリグラフィーも刺繍も、材料の性質や道具を持つ方向などなどからくる制約を知って、無理の生じそうな部分を避けながら自然に見せているところが共通するんだと思います。
私は、これまで刺繍をしているところを直接見たことがなかったので、リンクをしたビデオでは「そこから始めるのか!」「結び玉はつくらないのか!」 など、いろいろ想像と全く違う展開にドキドキしました。
そういえば、窓の氷の模様も刺繍にも見える。
書体デザイン、カリグラフィー、そして刺繍というジャンルを超えたつながり、自然の造形と人の手のつくり出す形がますます面白い。