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文字の表からなくなる人種差別

ドイツに引っ越してきてドイツ語を習い始めて間もない頃、電話での会話の練習をすることになって、そのとき初めて標準の Buchstabiertafel (文字を書き表すための表)があるというのを教わりました。

たとえば電話で自分の名前を相手に伝えようとするさいに、「Kobayashi」という音声だけではローマ字でどう書くかわからないかもしれないので、一文字ずつ区切って伝えることになります。でも、「K(カー)、O(オー)、B(ベー)A(アー)… 」と一文字ずつ言った場合、発音の似通っている H(ハー)と K(カー)などの違いがわかりにくいかもしれません。

その違いがはっきり音声で伝わるように、「K wie Kaufmann(カウフマンのカー)」とか「A wie Anton(アントンのアー) 」、などと決められています。つまり「Kobayashi」を言い表す場合は表の通りに「K wie Kaufmann、O wie Otto、B wie Berta、A wie Anton…」と言えば相手が聞き間違うことがない。

その文字表が DIN 5009 という規格で決まっていたのは、12月5日の このニュース を見て初めて知りました。書体デザインで DIN 1451 はすでに多くの人に知られていますが、この DIN というのはドイツの工業規格のことで、うしろに着く番号でたとえばマンホールの蓋だったりネジだったりの大きさなどの規格に分けられています。

さて、その DIN 5009 文字表では、A の Anton から M の Marie までは人の名前で言い表していますが、N にくると「N wie Nordpol(北極のエヌ)」となっていてちょっと違和感があるな、と思っていました。

じつは、1905年の文字表では D には David、N には Nathan という名前があてられていたのに、1934年のナチスドイツ時代の改訂で David と Nathan がユダヤっぽい響きの名前なので表から抹消され、Dora と Nordpol に変更されて戦後75年が過ぎていた、そしてそれを元に戻すというのが今度の DIN 5009 改訂のニュースです。過去の人種差別や偏見に歪められた文字表をそのままにしておかない、ということなのです。

文字の表からなくなる人種差別_e0175918_19020456.jpg
これは私の持っている辞書にあったドイツ語の文字表。いくつか候補が載っているのは、一番左がドイツ国内で使用する場合の文字表、1と番号のあるのがスイス国内用、2がオーストリア用。

by type_director | 2020-12-06 07:01 | Comments(0)