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欧文組版のマナー実例: 単語をかたまりで捉えて読む

ラテンアルファベットを使った英語などの文章を読むとき、読み手は一文字ずつ読んでいるのではない、ということを、私の著書などで書いています。長い文章を読むときは、小文字の適度な凸凹がつくる単語の輪郭が判別の手助けになって、単語をかたまりで捉えて速く読み進むことができます。なので、長い文章を全部大文字で組んだり、小文字同士の間隔を開けすぎたりすることも輪郭をわかりにくくさせるので、読むスピードがかなり落ちます。

下は、Tor Nørretranders 著『The User Illusion: Cutting Consciousness Down to Size』です。

この前段の内容を要約すると、心理学者ジョージ・A・ミラーが定期刊行物『サイコロジカル・レビュー』で発表した論文では、人間が同時に認識できるのはだいたい7個が限界で、それ以上のものを理解しようとする場合は一つのまとまりとして捉えるのだそうです。

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それを受けて、ここで何が書かれているか見てみましょう。この本の日本語版、トール・ノーレットランダーシュ著『ユーザーイリュージョン:意識という幻想』があるので、そこから同じ部分を引用します。

「たとえば前の段落に出てきた『まとまり』という語だが、読者は、最初に読み方を学んでいたときのように『ま・と・ま・り』とぶつぎれにして読みはしなかっただろう。一つの独立したまとまりとして読んだはずだ。」

そして、この記事で見ている英語版の方には、これを裏付ける興味深い仕掛けがしてあります。この段落の最後、丸括弧で括った部分の前の単語でわざと誤植をしておいて、「まとめて読むからこそ、誤植に気づかないのだ。」と書いています。実際私も気づきませんでした。その単語は、正しくは manuscript なのですが、r がなくても単語の形や長さに大きな変化がないので気づきにくいのでしょう。同じ一文字でも、もし p がなかったら単語の輪郭が大きく変わるのですぐに気づくはずです。

この、書体デザインやタイポグラフィと直接関係なさそうな本に書かれていることが、読み手は文字をひとつずつ読むのではなくて単語の輪郭を手がかりにしている、ということの裏付けになったと思います。

ちなみに、昨年夏の青山ブックセンターの選書フェア「100人がこの夏おすすめする一冊 2019」で、この日本語版を推薦いたしました。



by type_director | 2020-06-29 04:16 | 欧文組版のマナー実例 | Comments(0)