先日亡くなった高岡重蔵先生が若い頃に観たという映画を、いま片っ端から観ています。フレッド・アステア主演の『イースター・パレード』など、たいていはアメリカの映画。白黒の作品も多い。
観ているうちに、最初のタイトル部分だけでなく町のシーンなどで看板や標識が出るたびに「この文字を見てドキドキしたんだろうな」などと想像してしまいます。映画のなかで出てくる町の様子もそうだけど、ほんの一瞬しか映らないレストランの名前、ショップウインドウの文字、ネオンサインや八百屋の看板などを、憧れを持って見ていたんだろうな。ビデオやDVDなどない時代、劇場に行って、その一瞬を目に焼き付けるしかなかった。
こないだアメリカのボストンに行ったときに、ホテルの近くに映画館があったので、映画『Dunkirk』観てきました。ドイツで一回観ているのですが、英語版でもう一度と思って時間をつくって行きました。
外観は近代的なビルだけど、映画館の部分は歴史のある建物らしく、たぶん昔のままにしてあるんでしょう。アメリカなのに「THEATRE」と英国式綴りになっている。
中に入ると、昔からある書体
Della Robbia を使っていて良い雰囲気。「Della Robbia」はいま一般的にこう呼ばれているけど、うちの本棚にある1915年の Stephenson, Blake & Co. 鋳造所の見本帳では Westminster Old Style となっているし、他にも確か Cantoria とも呼ばれていた…こういう話を重蔵先生とすると止まらなかった。重蔵先生の頭の中の引き出しには、そういう話が無尽蔵に入っていました。
まあ、Aの裏返しはご愛敬ということで。
やっぱり映画館の文字はこうでなくちゃ。