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ドイツ語の ck が kk に変化するとき(2)
この件つまりドイツ語で ck が kk に変化することについて、ドイツに来てから意識的に読んだり調べたりしたことがなかったと思う。なのに、なんで銘板の前で面白いと思って写真に撮ったのか考えてみたら、最初に読んだのは、まだドイツに来るなんて想像もしていなかった時のことでした。

タイポグラフィの勉強をしていたロンドンから1990年暮れに日本に戻ってきたとき、持ち帰った本のうち一冊がこれ。
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英国オックスフォード大学出版局の組版ルールの本『Hart’s rules for compositors and readers』で、そのなかには英語の組版についての他に、仏語や独語組版についての解説も少しだけ載っていて、たまたまそれが頭に入っていたんだった。
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これを読んで、へえーと思っていたのが、一つ前の記事の銘板を見たときに、そうそう知ってる、読んだことある、と思ったわけですが、その知識は最新の正書法改訂(1998年)前のもの。

ドイツに引っ越して、よくわからないなりにもいちおう本を読んでいるわけだから、どこかで ck の単語の切り方を見ているはず、と思って本棚の本を調べてみました。そうしたら、古い本が好きだからというのもあって、前の正書法の年代の本のほうが多かった。頭の中で ck の切り方が更新されていなかったわけです。

Remarque 著 『Im Westen nichts Neues(西部戦線異状なし)』 Kiepenhauer & Witsch 社刊、1993年。これは、読みたくて本屋さんで新しい本を買おうと思ったけど、手に取ったその本の書体や組み方が気に入らず、けっきょく古本で買った。オフセット印刷だけど活字本の復刻版みたいです。なので書体はライノタイプ鋳造機の Stempel Garamond。

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最初に出てくる「Brücken」はふつうに ck で、二番目の「Brücken」は二行にまたがっているので ck が kk になっている。

Jan Tschichold 著『Erfreuliche Drucksachen durch gute Typographie』 MaroVerlag社刊、2001年出版だけど1960年版の複製版。本文の書体はライノタイプ鋳造機の Janson Antiqua。
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上から4行目の単語「erschrecken」で二行にまたがるとき ck が kk に。
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下から2行目の単語「Druckereien」で二行にまたがるとき ck が kk に。
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Immanuel Kant 著『Zum ewigen Frieden』 Reclam社刊、2003年。本文の書体は DTL Documenta。
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ここでは新しい正書法にならって、単語「Unterdrückung」で二行にまたがるとき ck の前で切って「Unterdrü-ckung」としている。
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そして、同じ本のフラクトゥール文字の組版。古本で買った。Bremer Schlüssel Verlag社刊、1946年。書体はライノタイプ鋳造機の Breitkopf-Fraktur。
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真ん中あたりの行の単語「Zuckerinseln」で二行にまたがるとき ck の前で切っている。「Zuk-kerinseln」としない。
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タイトルページに「1795年」と書いてあるし、奥付を見たら「Wortgetreuer Neudruck der Erstausgabe von 1795」つまり綴りも初版のドイツ語に忠実な新刊本と書いてある。実際、綴りが現代と違っている単語が多い。切り方もその当時の正書法に従ったのかも。ちょっとまた調べてみます。
by type_director | 2015-12-28 18:33 | 欧文組版のマナー実例 | Comments(0)