きょう5月24日は、アドリアン・フルティガーさんの87歳の誕生日です。金曜の夕方に郵便局に行ってカードを出してきました。
もうじき、アドリアン・フルティガーさんの『図説 サインとシンボル』日本語版が発売になります。監修は小泉均さん。日本でこの本を出すなら、この人しかいない!って思っていました。光栄にも、帯に推薦文を書いて欲しいと小泉さんがおっしゃるので書いたのですが、なにしろ私も思い入れが強いので、短くまとめるのが大変でした。
ここから下は、だいたいその帯に書きたかったことですが、こんなの帯に収まるわけがない! でもどこかに書いておきたいので、載せようと思います。
私がフルティガーさんという人のことを「すごい人だ」と実感したのが、この本のもとになった英語版『Signs and Symbols』を最初に読んだときです。
本に出会ったのが1989年、そのとき私が住んでいたロンドンのアパートから10分くらいのところにある小さな本屋でこの本を手にとりました。中を見て、すぐに買って帰り、夢中で読みました。それを機に欧文書体デザインを見る目が、もっと言うと自分が見ているものの見方がまったく変わってしまいました。
もちろん、それ以前にもフルティガーさんのことを数々の名作をつくってきた書体デザイナーとして知ってはいたのですが、この本に書かれている内容を読んだら、鳥肌が立った。だって、記号や文字がなぜそう「読まれる」のか、読み手のほんの一瞬の心の動きを解説してくれるんですが、それがまるでスローモーションの一コマ一コマを見ながらの解説のように冷静に分析してるんです。なぜサイコロの「6」の目の点を別の並べ方にしたら迷ってしまうのか、まで。
だから、「わかる! たしかにそういうふうに感じる!」という部分があって嬉しくもなったし、逆に「書体デザイナーってここまで考えてなくちゃいけないのか、道のりは大変だ」という気持ちにもなった。
その後、欧文書体タイプディレクターとしてドイツに移り住み、そのフルティガーさんと書体デザイナーどうし、いっしょに仕事ができるようになった。腕が認められたのか「これからはお互いを『あなた』でなく『おまえ』って呼ぶことにしよう」と言われて、それ以後は「アキラ」「アドリアン」です。
フルティガーさんとの仕事のために行ったベルンの古本屋で、最初のドイツ語版『Der Mensch und seine Zeichen』3冊組を見つけて、そのあとフルティガーさんとの仕事の時に本を持っていき、私がこの本の英語版に出会ったときのことを熱く語ってしまいました。本の扉にサインもしていただきました。
今度の日本語版は、英語版『Signs and Symbols』からの日本語訳です。私がドイツ語版と照らし合わせてもじつに丁寧に訳されていて、ここまでの苦労がうかがえます。英語版のほうは、ドイツ語版より後に出ているので付け加えられた部分があるし、この日本語版には他にもおまけ的な内容がある。だからドイツ語版3冊組よりも英語版よりも、日本語版のほうが充実しています。
小泉さんは、フルティガーさんのお誕生日に発刊を間に合わせたかったそうですが、この内容ならば時間がかかるのはしょうがない。とにかく、この本がちゃんとした日本語で出るなんて素晴らしいことです。
本の詳細は
こちら 。