以前、
この記事 で、ドイツのあちこちで見かけた「頭の平らな A」をコレクションしました。その記事で見せた写真を二つだけ選ぶと、だいたいこういう A です。
読者のかたから、そういうAはそれだけでドイツの印象を与えたり特定の国を想起させたりするのか、というご質問をいただいたので、写真でご説明しようと思います。
その質問を読んだのは、たまたまドイツのうちで新潟の実家から持ってきた荷物の整理をしている最中でした。そのときに目の前にあったのが、持ってきた大事にしている LPレコードのうちの一枚、Small Faces の名コンセプトアルバム『Ogdens’ Nut Gone Flake』です。Small Faces はイギリスのバンドで、ジャケットは伝統的な刻みたばこのラベルっぽいデザイン。
ジャケットに目をやったら、たまたまそういう A になってました。手書き文字ですが、「…BY THE SMALL FACES」の部分、二回出てくる A はどれも横棒がついて台形っぽいデザインになっています。C のくるんというのといっしょで、昔からあるような装飾っぽいデザインにしたいという意図があったのでは。裏面もそうでした。
私の個人の活字見本資料から、これは1900年前後のスコットランドの活字見本帳。まだちょっとアールヌーボー調の名残があって、装飾のついた書体のなかには頭の平らなAが多いです。
なんなら A の頭の横棒のほうが、下の部分より幅が広いなんていうのも。下の列5文字目。
もっとモダンな書体でも。イギリスで出版された活字の見本。Rockwell は20世紀前半のスラブセリフ書体ですが、A の頭の横棒はけっこう目立ちます。
まとめると、スコットランドやイギリスでもそんな例はたくさんあったということですね。
スコットランドの活字見本帳が出された当時は、それが流行のスタイルだった。そういう蓄積があって、今の時代から見て独特の時代や様式を演出することはあります。「アールヌーボーっぽい」「昔風の装飾」みたいな。文字デザイン全体やときに文字以外の部分も使って。
あとは筆記体で、国や時代によっては学校などでアルファベットを独特の書き方で教えているところがあります。
でも、A ひと文字がそういう形をしているからといって、それが特定の国の雰囲気を醸し出すようなことがあるとは私は思いません。
「書体が特定の国の…」みたいな話って日本ではよく質問されるので、似たようなことを前に書きました。ご参考までに。
書体は特定の国の雰囲気を持ってるの? その1
書体は特定の国の雰囲気を持ってるの? その2