冬の間は、週末に本を読むことが多くなります。
タイポグラフィ関係の本を読むこともあるけれど、ぜんぜん違うジャンルの本を読んだりもします。
ときどき読み返したくなる、という本もあります。タイポグラフィの知識とかそういうのとは別で、もっと根底の考え方の部分を自分で確認したくなるんです。
『木のいのち 木のこころ – 天』(写真右)は、宮大工、西岡常一棟梁の語った言葉を聞き書きしたもの。日本にいたときから繰り返し読んでいましたが、去年、日本に出張に行ったときに、西岡棟梁のお弟子さんの言葉も載っている、『木のいのち 木のこころ – 天・地・人』(左)を買い足しました。
なぜ大工さんの本を読むかって、たぶん私の思うタイポグラフィに通ずるものがあるから。
そして、烏有書林刊の高岡重蔵氏『欧文活字』新装版。これはストレートに欧文タイポグラフィの本です。
もとは高岡氏が1948年に書かれたハンドブックなので、欧文活字書体についての基礎知識的なことが載っていますが、新装版になってからの巻末付録が、デジタルの時代にこれを持つ価値を高めてます。巻末といってもけっこうなページ数をさいて、高岡氏の1973年のタイポグラフィ作品「Wandering from type to type」がカラーで載っていることがすごい。
タイポグラフィ作品一枚一枚が、実に味わい深い。作品と言っても偉そうなんじゃなくて、ついニヤリとさせられる、そんな洗練されたユーモアも入ってくるのが良いんです。
さらに、「新装版刊行にあたって(雑談より)」がついていて、15ページにわたって活字にまつわる聞き書きの話が載っています。これの出だしが「言いたいことは何もないよ。」で始まっている。頑固な職人さんから肩すかしを食っちゃうんじゃいかと心配していると、どんどんすごい話が出てくる。
私は今から25年も前に嘉瑞工房にたびたびおじゃましては高岡重蔵先生ご本人から何度か同じ話をうかがっているんですが、それでもやっぱり読んじゃう。ヘルマン・ツァップさんとの話とか、何回も読んでいるのに、ここにくるといつも身体が熱くなる。
そして締めくくりは「本当に大切なのは、そういうことだ。」ですから。
すごい話聴いちゃった、そんな満足感が得られます。何回読んでもそう。
雑談とことわっているくらいだから、タイポグラフィの教科書的なことは語ってはいないんですが、そういう部分に実はいろんな大事なことが隠れている。それを再確認させてくれる本です。
著者の高岡重蔵先生は、きょう94歳を迎えられました。お元気と伺っています。おめでとうございます。