これは、こないだ引き出しを整理したときに出てきた、ドイツの10マルク紙幣とペニヒ硬貨。
紙幣には、1920年代にデザインされた書体、
Futura (フツラ)が使われています。
信じられないことかもしれませんが、10年前の日本では、 Futura には、「ナチスのイメージがまとわりついている書体」「ドイツやイスラエルではタブー視されている書体」というような都市伝説があったんです。ドイツでは、こんなふうに20世紀後半にも紙幣としてちゃんと使われていたのに。
今から10年前、雑誌『デザインの現場』で私が書体デザインについての記事を書いていて、読者に向けて質問を募集したときに寄せられたうちの一つが、Futura についての質問でした。その噂話が日本で広まっていたのを知らなかった私は、質問してくれたデザイナーにあてて、「Futura 書体について今調べております」とメールしました。それが2004年6月23日。
そのあと数日間のメールを読み返していたら、そのときに何をしたかを思い出しました。
メールを出した直後に講演のためスペインのバレンシアに行く用事があって、スペインから戻った6月30日の報告では、金属活字の Futura を当時まだバルセロナで製造していたバウアー鋳造所のハートマンさんに講演会場でお目にかかって直接尋ねたこと、いっしょに講演をしたヘルマン・ツァップさんにも尋ねたことが書いてある。お二人も、Futura とナチスとのつながりの話は事実と違うという意見だったので、噂がまったく事実無根であることに確信を持ち始めます。
その翌週、2004年7月の最初の週には、国際タイポグラフィ協会のイスラエル代表の方からも、「そんな話は聞いたことがない」という返事のメールをいただいてました。イスラエルからも、そんな事実のないことが裏付けられたわけです。同時にベルリンの図書館にも連絡して、関係資料をあたりました。こんなふうに、興味を持って調べ始めると、たくさんの人たちが手間を惜しまず協力してくれるのがうれしかった。
その調査結果は、『デザインの現場』で記事としてまとめました。その記事の PDF は、
こちら からダウンロードできます。記事が消え去るのはもったいないといって、友人の立野氏が、許可を取った上で、こういう形にしてくれました。
それから10年経ちました。
別の私のブログ
「ここにも Futura」 では、使用例をたくさん見ていただこうという目的で、ここドイツやヨーロッパで見た Futura の写真を中心に随時アップデートしています。
都市伝説は、もうなくなったでしょうか?