ずっと待っていた本が、こないだ日本からようやく届きました。高岡重蔵著『活版習作集』です。
もうすでに、朝日新聞に「本場顔負けの欧文組み版の技」という題で書評が載ったそうで、私が書き加えることなんかがあるとすれば、その確かな技もそうですが、その印刷物が放(はな)っているエスプリの部分にも注目です。どう見ても、英国かヨーロッパのどこかで生まれ育った人の仕事にしか見えない。
普段、「重蔵先生」と呼ばせていただいているので、ここではこの本の著者、高岡重蔵さんのことを「先生」と書きます。っていうと、先生は「いや、『先生』ったって、ただ先に生まれただけで、べつに偉いわけじゃない」と言います。そんな人です。
先生は「小学校しか出てないんで、英語がダメ」とおっしゃる。でも、筆記試験は良い点とれないだろうけど、英国では全然ふつうに溶け込んでしまう。
実際、私の友達(イギリス人)が古本屋をやっていて、そこに遊びに行ったときに、重蔵先生の印刷物があって、「アキラ、この人知ってるか?」と興奮気味に尋ねられて、「友達だよ」と自慢できたこととか、先生といっしょにスコットランドの印刷博物館に行ったときに、先生がそこのベテラン印刷工と長い間楽しそうに印刷機についてしゃべっているのを見たこととか、200年以上前の英国の印刷の手引きを手に入れて読んだとき、そこに書いてあることと先生が活字について雑談でしゃべった内容とが見事に同じだったとか、そういうことが実際にある。
書評の言うとおり、「本場」で一流の職人と対等に話せる腕のあるかたです。しかも、なんとか真似しようとギリギリでやってるんじゃなく、英国やヨーロッパの人をニヤリとさせるような「くすぐり」や、「この日本人はなんでこんなこと知ってるんだ?」という一流の仕事をシャレで入れるという余裕がある。
なぜニヤリとさせられるのか、どこに隠されているか、巻末に30ページ以上にわたって解説が書かれています。それは発行者の上田さんが丹念に先生から聞き取ったのをわりとそのままの話し言葉で書いているので、難しくない。わかりやすい。
そう、大事なことは、わかりやすい。その印刷物を見た人を、欧文についての知識があろうがなかろうが、一瞬で英国やヨーロッパに持っていってしまう。能書きなしで、一枚の紙の中にその空気を収めて表現できるのがいかにすごいことか。
ちょっとだけ見せますね。
これなんか、ヘルマン・ツァップさんの直筆によるイニシャルが描かれているんですが、ツァップさんにお願いして無理矢理やってもらったのでなく、ツァップさんにそうさせるための仕掛けがちゃーんとある。ぜったいツァップさんはそこでニヤリとしたはず。詳しくはこの本126ページの解説で。
詳しい内容は発行者の
こちら のページで。
販売店リストは
こちら 。
追記:Amazon からも購入可能になったそうです。