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秋の空
きのうの夜は、フランクフルトの Alte Oper (旧オペラ座)に、ベートーベンの第九交響曲を聴きに行きました。

コンサートは東日本大震災被災者のための慈善公演で、オペラ座には日の丸の旗が掲げてありました。気持ちの良い一日でした。街灯の後ろには澄みきった秋空が広がります。
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こういう秋空を見て思い出す和歌があります。しかも書体デザイナーの視点に近いところが面白いんです。私のふるさと新潟の歌人、會津八一(あいづ・やいち、1881–1956)の歌です。

  すゐえんのあまつおとめがころもでの
  ひまにもすめるあきのそらかな

この歌は奈良の薬師寺の塔のてっぺんにある水煙を詠んだものです。八一の詠んだのは、薄暮時ではなく昼間の深い青い空だったろうと思いますが、たまたま私の頭の中ではこの風景と重なってしまったので。

以下は八一自身による解説の引用です。

「このすゐえんの意匠は寺によって少しづつ違ふが、薬師寺ののは、その網の目のような中に、何人かの天女の群れが、笛を吹いたり、舞を舞ったりしてゐるので、それを、下から見上げてゐると、今日は、よく晴れた日で、その天女の袖や袂の間からも澄み切った秋の空の色が見える……といふのです。」(中公文庫『続 渾斎随筆』176頁より)

フランクフルトで水煙を探そうと思っても無理な話ですが、この写真では、黒い鋳物の唐草で切り取られた秋空の部分をそれに見立てたわけです。
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八一は書家でもあったので、余白の形に非常に神経を使っていたようです。彼が水煙の隙間の秋空を見たような視点で文字を見るならば、良い書体デザインがなぜ良いのか、さらにハッキリわかります。

文字のデザインをするときに、文字の形の部分を黒として、背景を白とするならば、書体デザイナーは白い部分を見ます。白い部分の形が美しいことが大事です。

最近の記事の中では、一つ前のヘルマン・ツァップさんの P の内側や、二つ前のグドルンさんの Diotima の n–s–t 間の白の部分に美しさを感じ取っていただけると思います。もちろん、特定の組み合わせだけでなく、前後にどんな文字がきても美しい余白をつくることが肝心で、それが一段と難しいわけです。
秋の空_e0175918_1626474.jpg

by type_director | 2011-09-25 07:21 | Comments(2)
Commented by mayuko at 2011-10-07 14:16 x
質問です。windowsで「DaunPenh」という書体が標準で入っています。とても素敵な書体だと思ったんですが、作者などネットで調べてもわかりませんでした。。お時間ありましたら教えていただけますか?
よろしくお願いします。
ツァップ展とっても素敵でした。
Commented by type_director at 2011-10-08 04:28
mayuko さん、これでは?
www.microsoft.com/typography/fonts/font.aspx?FMID=1561
ツァップ展、喜んでいただけてこちらも嬉しいです!