ひとつ前の記事で、高岡重蔵氏の『欧文活字』(新装版)の巻末付録「Wandering from type to type」の組版がスゴイという話をしましたが、あれは誇張じゃないんです。
重蔵先生と知り合って嘉瑞(かずい)工房に話をしに通うようになって3年目の1993年、英国に旅行に行って知り合いの古本屋(タイポグラフィ関係の書籍が専門)の B さんの家に泊めてもらったときの話です。
その B さんは、商売柄とうぜんタイポグラフィ関係とか印刷関係の出版物の目利きでもあるわけですが、私が到着して荷物を降ろして一息ついたところで、いそいそと小さな封筒を持って来て、「アキラ、これすごいぞ、この Kazui Pressって知ってるか? 日本にあるんだぞ!」と自慢げにその封筒から一枚一枚とりだして見せてくれたんですが、それが「Wandering from type to type」だったんです。
私はそれを前に何度か嘉瑞工房で見せていただいていたので、「ああ知ってるよ、この人、知り合いなんだよ」とすぐに言ったけど、ちょっと誇らしげにそう言ってたと思う。なんか自分までエラいような気になったのを憶えてる。海外でそれが相応の値で取引されてコレクターは買うんだろうな、とも思ったけど、問題は値段がいくらに評価されたかじゃなくて、イギリス人の目利きを興奮させるような組版をしていたんだってこと。
そのあと、出されたお茶を飲みながら、しばらく B さんとそれをながめて「すごいよねー」なんてしゃべってました。日本だとあんなちっちゃな印刷所だけど、世界での評価は高いんだ、ということを実感して、ますます重蔵先生を尊敬するようになりました。
その B さんのところには、1995年に重蔵先生といっしょに遊びに行きましたし、いまでもその B さんからときどき良い買い物をします。つい先週も。