きのう、ヘルマン・ツァップさん宅におじゃましていろいろ話をしてきました。
ツァップさんが設計した金属活字の Palatino の見本(1950年前後)その他をちょっと前にツァップさんからいただいたんです。それを家でながめていて気になったことがあったので質問してきました。気になったのは下の写真のいちばん右のシートです。
Palatino (頭文字 P)とその姉妹書体 Aldus (頭文字 A)の間の行に、Stempel Garamond のアルファベット(頭文字 G)が挟まっています。A から Z まで並べて、その長さの差を比べています。黒い塊は、いちばん長いものとの比較で、これだけ短くなっていますよ、というのを分かりやすくするため。
ききたかったのは、「なんで比較の対象が Stempel Garamond だったんですか?」
ツァップさんの答えは簡単でした。「そのころいちばん売れていた書体だから。」
予想通りの答えでした。今でも、Stempel Garamond の
デジタル版 の売れ行きは好調で、ライノタイプ・モノタイプ・ITC の1万書体以上ある中で、 Futura に次いで12位です。活字時代(発売は1925年)からのロングセラーなんです。Palatino は7位だった。
話は変わって、長男が友だちから借りてきた本。表紙はこんなふうに男の子ウケしそうな感じのイラストですが...
中を覗いてみたら、Stempel Garamond できっちり組んであって感心しました。読みやすい。大人向けの本よりもやや文字サイズが大きめです。
「1592年のガラモンのオリジナル活字をベースに設計された正当派」で知られていた Stempel Garamond は、活字時代からドイツのステンペル社が誇る主力製品でした。だから、ツァップさんの本文用書体もそれと比べて長いとか短いとかということが検討されたわけで。
「Garamond はフランスでしか使えない書体」なんてことは決してありません。私はこれまでドイツでじつに多くの本が Garamond で組まれているのを見ています。
Palatino とその姉妹書体 Aldus の改刻版は、ツァップさんと私が共同で設計しました。その辺のことは、私の本『欧文書体2』でも少し触れています。書体見本はこちら。
Palatino の改刻版
Aldus の改刻版
子供の春休みに合わせて31日から休暇を取ります。次の更新は4月11日以降の見込みです。