T-h 合字について、読者の o_tamon さんからの以下の質問にお答えします。
「『Th』のような普通に組むとその部分だけ字間が広がって見えてしまうのを解消する機能もあると聞いたのですが本当でしょうか?」
例は Adobe Garamond Regular です。この図の、上は合字でない Th 、下は T-h 合字です。
OpenType 機能の「合字」を選んでおくと、f-i の組み合わせでは自動的に fi 合字になるのと同じように、T-h の組み合わせは合字になります。
これについて、実は2008年に Adobe Garamond Regular のデザイナー、ロバート・スリンバックさんにインタビューしていたんですよ。『欧文書体2』後半の記事にするためのインタビューだったんですが、インタビューの量が多かったのと内容が濃すぎたためボツにした部分です。スリンバックさんの回答のうち半分以上は削ったかな。他のインタビューも同様です。
T-h 合字について、彼は「賛否両論あった」けれども、「来たるべき時代の標準になるだろう」と言っています。たしかにアキの部分を見ればよくなったように見えますが、問題は慣れですね。今のところ、Adobe の書体以外でこの合字が入っているのは少ないと思います。
ただ、デジタル以前にもT-h 合字の試みはいくつかあって、スリンバックさんも「自分の発明ではない」とハッキリ言っています。私の知っているところで有名な書体は、ヘルマン・ツァップさんの Palatino Italic(金属活字、1948年)があります。これは当時その書体を鋳込んでいたステンペル社の見本帳で、ツァップさんからもらったものです。
ツァップさんと私とでつくったデジタル書体 Palatino nova には、T-h 合字は入れていません。