宮里さんのブログでも
合字のこと をとりあげてくれました。そう、ct 合字、st 合字なんてのもあるんです。これは私の書体 Clifford に入っているct 合字、st 合字。
これは宮里さんも紹介していた Adobe Caslon(カスロン)のもの。
装飾的な意味合いが強いので、通常の本文組版では滅多にお目にかかりませんが、私が定期的に購読しているこの『Matrix』では、本文をすべて Monotype Caslon(金属活字)で組んでいます。
ct は合字を使っているけど、最後の行の「constant」で st 合字を使っていない。ざっと見ても、この金属活字書体には st 合字が無いみたい。
Monotype Caslon のモデルとなったカスロンの18世紀の活字書体はどうなんでしょう。私の本棚にある1771年の出版物に、カスロン鋳造所の書体見本が綴じ込まれています。その中には、「短い s」と t の st 合字が出てきません。本文2行目、疑問符の前の単語「nostra」の形に注目。
この当時は、「f」に見えてしまいそうな「長い s」と「短い s」とを使い分けてました。「短い s」は単語のおしまいに使います。そんなわけで、合字も当然「長い s」と t の st 合字なんです。ちなみに、この本はすべてカスロンの活字で組んであります。この「instructed」なんて、一つの単語に2回合字が出てくる。
つまり、もともとはこの書体には「短い s」と t の st 合字は無かった。
「長い s」は19世紀終わりにほとんどなくなりました。Adobe Caslon には、「長い s」とその合字も入っています。
ノスタルジックな感じを演出するには良いかもしれませんが、読み間違われる危険性は大きいでしょうね。イギリス人だったらみんな知ってるかというと、そうでもない。オックスフォード辞典編纂チームの出した本にも「長い s」について「f ではありません」なんて解説しているページがあります。