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U と V
フランスのストラスブールに行ってました。この写真はストラスブールに行く前に立ち寄った小さな村で撮ったもの。このへんはワインの名産地です。これはレストランで、「WISTUB DU SOMMELIER」と書いてありますが、U が V になっています。
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これはストラスブールの街の中にある橋。「PONT KUSS」ですが、ここでも V で綴られています。なぜでしょう。
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いっきに2000年前にさかのぼります。古代ローマの遺跡には、U の字がありません。このころはまだ U の字がなくて、発音の違う「U」も「V」も同じ V で表していました。だから、ローマで撮ったこの写真の「AVGUSTA」は「AUGUSTA」のことだし、
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これはフォロ・ロマーノですが、この2行目の「AVG」も「AUG」つまり初代ローマ皇帝アウグストゥス(在位 BC 27–AD 14)のことでしょう。アルファベットの文字のなかでも、U は新参者なんです。「U」の発音を表す文字として V と区別して使われはじめたのは大ざっぱに1700年前後らしいです。
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つまり、「歴史があるぞー」と言いたいわけです。
「WISTUB DU SOMMELIER」や「PONT KUSS」は、2000年前のものではないでしょうが、碑文みたいな雰囲気を出したいわけで。

ストラスブールの大聖堂の壁に人の名前がびっしり彫ってありました。
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2行目は SULTZ が V で綴られています。
左下の四角は
  BARTHOLO
  OMAEUS ZIM
  MERMANN
  AUS CASSEL (AVが合わさっている点に注意!)
と書かれています。カッセル(ドイツの街の名前、いまは Kassel と綴る)のバルトロメオ・ツィンマーマンさんですね。

右下の四角は
  JACOB
  DÜRNINGER  (IN が合わさっている点に注意!)
  JÜNGER
  1763
です。ありがたいことに彫られた年が分かる。ヤコブ・デュルニンガー(Jünger = 若い方、ということだから日本風に言えば「二代目」でしょうか)さんです。ここで V と U とが両方出てくるところが面白い。あ、そういえば J も新参者でした。「IACOB」となってますが「JACOB」のことです。でも、U を V とするのはよく見かけるけど、J を I としてあるのはあんまり見ない気がする。

U を V と綴ったファッションブランドの BVLGARI は今年創立125周年らしいです。ライノタイプより2歳年上。
by type_director | 2009-06-05 12:27 | Comments(4)
Commented by tksh at 2009-06-05 22:01 x
U を V と綴るのは、石に彫る時その方が簡単だったから、そういった理由を伺った覚えがあるのですが、実際はどうなんですか?
Commented by BUN at 2009-06-06 09:23 x
いつも大変楽しく読ませていただいています。
環境・気候・文化・景観が人を作り、人が環境・気候・文化・景観を変えていく。おだやかに未来を作っていくためには歴史を知ることが必要だと、この頃強く感じます。
人のブログにコメントを残すことはほとんどしない方ですが、衝動的に一言伝えたくなりました。
「手触り感のある記事をありがとう」
Commented by type_director at 2009-06-06 14:09
tksh さん、ご質問有り難うございます。実際に彫ってみるとわかりますが、初心者のうちはまっすぐな線を彫るのが大変で、曲線はラクです。

石彫りの人は、花や人物やオーナメントを彫ったり、また文字でもレリーフ状に文字が浮き出すように彫ったりもするわけですから、ラクをするために綴りを変えるなんてことはしないし、第一そういうことをしたらクライアントに怒られると思うんですよね。どっちかというと、手のかかる部分をちゃんとキレイに彫るのが職人の腕の見せ所じゃないですかね。最後の写真の左上の CH の H なんて、別にまっすぐでも良いのに、わざわざあんなふうに装飾的にしていますよ。
Commented by type_director at 2009-06-06 14:16
BUN さん、「手触り感」ってすてきな言葉ですね。有り難うございます。そう、ヨーロッパで良いなと思うのは、歴史がちゃーんとそこにある、そしてそのままで日常生活の一部として機能しているっていうことですね。BUN さんの家紋とか錯視とかの記事、拝見しました。