このブログを読んでいる人にどこまで伝わるかな?と疑問を持ちながら書くことがあります。例えば「世界的な書体デザイナーのフルティガーさん」と書いても、デザイン業界の人でない限りそれがどういうことなのかっていうスケール感がつかめないかもしれない。だいたいフルティガーさんってどういう書体をつくったか、どこが新しいのか、とかも。
まず、フルティガーさんの名前を不動のものにしたこの書体について、ちょっと解説です。
フルティガーさんのこの書体、
Frutiger といって彼の名字がそのまま書体名になっています。
上の写真は現在のパリのシャルル・ド・ゴール空港です。この空港のサイン用書体として1968年から開発に着手、開発のコンセプトは「文字が矢印のように明快であること」でした。書体として一般向けに発売されたのは1976年です。識別性に優れていて、現在もいろんな空港で使われています。私の知っている限りでは、
アムステルダム・スキポール空港、2008年の第5ターミナル開港にあわせてこの書体をアレンジして導入した
ヒースロー国際空港、韓国のソウル国際空港、あとは空港じゃないけど
日本の JR の番線(プラットフォーム)表示とか。駅名のローマ字表記は別の書体だったと思う。
それまでのサンセリフ体、日本語だと角ゴシック体は、この Helvetica (ヘルベチカ。1957年に発売)みたいに、動きがなくてカタイ感じのものがほとんどでした。日本の JR の駅名はたしか Helvetica だったかな。
なので、Frutiger のオープンで明るいデザインは画期的でした。文字の中の空間部分が広いので、とくに数字の3と8、6と9など、悪条件下で識別しにくくなる文字も分かりやすいのが利点です。試しに Akzidenz Grotesk (アクツィデンツ・グロテスク。もとは1896年のデザインだそうです。スイスのチューリッヒ国際空港で使用)とHelvetica と Frutiger とを同じようにぼやかしてみると...
ね。これだけぼやけても、Frutiger はまだ読み取ることができます。
Frutiger 書体以降、人間的な柔らかい曲線を生かしたサンセリフ体がどんどんつくられます。つまり19世紀に誕生してからずっと垢抜けなかったサンセリフ体の新しい時代をつくった、まさにマイルストーン的な書体です。これが空港以外でどんな使われ方をしているか、パート2で書きます。
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ちなみに、ヒースロー空港で使われている Frutiger をアレンジした書体については、5月末に発売予定の雑誌『デザインの現場』6月号に写真と図版つきで詳しく載ります。取材と文は
「これ、誰がデザインしたの?」の渡部さんと三宅さん。そちらもご覧ください。