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Feature of the month '06.Oct

『明日へのチケット』 三枚のチケットと三人の監督が導く時間を楽しむ旅とは
Feature of the month \'06.Oct_b0071697_1722714.jpg
 アッバス・キアロスタミ、エルマンノ・オルミ、ケン・ローチ。説明の必要もないほど、世界中で愛され、その才能が高く評価される三人の名匠がともに一本の作品を撮る。夢のようなこの企画に興奮を覚えるのは、私だけではないはずだ。
 舞台はドーバー海峡を越えてヨーロッパ各国を走りながらローマへと向かう列車。あるチケットは初老の大学教授に予期せぬときめきを与え、別のチケットは青年と未亡人に自分と向きあうことを教え、もう一つのチケットは若者たちに“世界”の現実を見せる。三枚のチケットが導く三つの物語=旅はときに詩的(エルマンノ・オルミ)で、ときに教訓的(アッバス・キアロスタミ)、そしてまた、ときに現実的(ケン・ローチ)だ。
 三人で一本の映画を撮るというアイディアはキアロスタミのものだった。彼はそのきっかけをこう語る。「オルミと仕事をしたいと思った。彼のことが好きで、とにかく会いたかった。彼に会って思ったよ。彼の映画はすばらしいけど、本人の方が千倍も素敵だ、と」
 一方、ケン・ローチについてキアロスタミは「どこか学生みたいだと思った」と振り返る。「新人の映画学生のようにエネルギーがあって、すべてを知りたがった。その根性には驚いた。一緒に仕事をして、彼のことがとても好きになったよ」
 これまで一度も会ったことがなかったという三人。同じ監督として、お互いを尊敬しているからこそ、それぞれに独立した三つの作品を一本にまとめるオムニバス形式としてではなく、同じ舞台で関係しあう登場人物を使った“共同作品”としての制作が可能だったのだろう。しかし、キアロスタミは今回の企画に百パーセント満足しているわけではなさそうだ。「最初は三人の監督が同じ舞台で同じ登場人物を使うことを考えていた。例えば、ある話で夫婦だった男女が次では兄妹や見知らぬ人になる。同じキャラクターが物語によって変わるのが面白いと思ったし、一つのチャレンジでもあった」。結局、キアロスタミ以外の監督が自分の独立したパートを撮りたがったため、この企画は実現しなかった。キアロスタミ自身は「いつか実現したいと思っている」と、最初の企画に対する強い思い入れを語っている。これはこれで、ぜひ実現させて、新しい興奮を私たちに届けてほしい。
 しかし、私個人としては、今作はやはりこのスタイルでよかったと思う。旅をモチーフに、同じ列車に乗り合わせた登場人物たちのエピソードを並べることで、それぞれの監督の作風だけでなく、彼らが人生のどういう瞬間を慈しむかが一層鮮明になっている。そしてそれもまた、この作品の魅力であることに違いはない。キアロスタミの粋な計らいから生まれたこの作品は、流れる景色と登場人物の心の動きを感じながら、ひたすらそこにある“時間”を楽しむためにある。これこそ、時間の芸術である映画の本当の醍醐味だろう。(井上麻子)

監督:アッバス・キアロスタミ、エルマンノ・オルミ、ケン・ローチ
出演:カルロ・デッレ・ピアーネ、ヴァレリア・ブルーニ=テデスキほか
★10/28より渋谷シネ・アミューズほかにて公開
# by switch-movie | 2006-10-19 00:05

観ておきたい映画4本 '06.Oct

『トンマッコルへようこそ』

観ておきたい映画4本 \'06.Oct_b0071697_16585511.jpg人々が笑顔を絶やさず自然と共生している村、それがトンマッコルだ。そこへ敵対する3人の兵士が現れるところから物語は険悪になっていく。チョン・ジョエンやシン・ハギュンといった旬の俳優たちの演技はキレがあり素敵だが、笑いと涙と切なさがファンタジーの世界で次々に交わり、その振り幅が現実世界を明示していると確信した時に、トンマッコルに強い共感を覚え、村はより一層輝いて見える。(坂本亜里)

監督:パク・クァンヒョン ★10/28よりシネマスクエアとうきゅう、シネ・リーブル池袋ほかにて公開




『手紙』

観ておきたい映画4本 \'06.Oct_b0071697_1659126.jpgある殺人事件の加害者家族の苦悩と人との関わり合いを描いた、東野圭吾原作の作品。玉山鉄二の鬼気迫る演技には息を飲み、エンディングに流れる小田和正の歌声は涙を誘う。時代設定ははっきりしないが、どこかひと昔前のにおいを感じる。あの時代に置いてきた“何”を、私たちは後悔しているのだろうか。立て続けに公開されるレトロな作品を観ると、複雑な気持ちになるばかりだ。(坂本亜里)

監督:生野慈朗 出演:山田孝之、玉山鉄二、沢尻エリカ ★11/3より全国松竹・東宝系にて公開




『ブロック・パーティー』

観ておきたい映画4本 \'06.Oct_b0071697_16592993.jpg'04年、コメディアンであるデイヴ・シャペルの呼びかけによってブルックリンで開催された一夜限りのシークレットライブの模様と、そこに至るまでのドキュメント。たとえばシャペルと街の人々の会話からは二年前とはいえ黒人社会のリアリティを読み取れるなど、見所も笑い所もあり過ぎなのだが、ともかくカニエ、モス・デフ、そしてフージーズ再結成(!!)という記号に反応する人は全員観ましょう。(内田正樹)

監督:ミシェル・ゴンドリー 出演:デイヴ・シャペル ★11月上旬渋谷アミューズCQNにて公開




『ユア・マイ・サンシャイン』

観ておきたい映画4本 \'06.Oct_b0071697_16594686.jpg韓国の実話を元にした問題作。主人公はHIVに感染したことを知らず売春行為を行い逮捕された女性だ。暗い過去を持つ彼女は牧場で暮らす青年と恋に落ちる。……と聞いて、純愛やメロドラマを決して想像してはいけない。この映画はとてもスキャンダルでありモラルを問う作品でもあって、決して美しいものではないのだ。しかし、美しいものを守ろうとした男女の決死の思いだけはしっかりと描かれている。(坂本亜里)

監督:パク・チンピョ 出演:チョン・ドヨン ★11/3より日比谷シャンテシネほかにて公開
# by switch-movie | 2006-10-19 00:00




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