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Feature of the month '06.Nov

『イカとクジラ』 ちっぽけで情けない人間が求める、ひと周り大きな幸せ
Feature of the month \'06.Nov_b0071697_1551145.jpg
 少し痛くて、だいぶおかしな家族の見事な悲喜劇が誕生した。アメリカでは第二のウディ・アレンと称され、その脚本力が高く評価されたのは、『ライフ・アクアティック』でウェス・アンダーソンと共同脚本で参加したノア・バームバックだ。彼自身の体験を元に書き上げたというこのホームドラマは、両親が急に離婚を持ち出したことから幕をあける。十六歳の兄ウォルトと十二歳の弟フランクは、その離婚によって二つの家を行ったり来たりするハメになる。元は人気作家だったが今は落ちぶれ、しかしその現実を直視しようとせず、プライドだけは高い父親。片や、新人作家として華々しいデビューを飾ろうとしている母親は、急にキャリアウーマンを気取る。兄はピンク・フロイドの名曲「Hey You」を自分のオリジナル曲だと偽り学校のコンテストに出場。弟はビールで酔っぱらい兄に食ってかかる。まともな人間がひとりもいないこの家庭が、今まさに崩れようとしている。それは情けないのひと言に限るのだが、どこか切なくて、思わず笑ってしまうのが本作である。悲劇であると同時に喜劇でもある人間の表裏一体の面白さが、抜群のユーモアで描かれる。これがリアルだと思えて、安心も出来る。
 印象的なのは、別居した後に父親が母親の家を訪ねるシーンである。玄関先での長いやりとりが長回しで映し出される。仲を取り戻したいであろう父の言葉は途切れ途切れで、吐き出せない思いは、自分の高いプライドによって邪魔をされてしまう。妻が若い男を家に引き連れているのを知って、さらに激情。必要以上に冷たい言葉を浴びせてしまう。妻の悲しい表情を、彼はちゃんと見ていたにも関わらずだ。妻もまた、孤独を別のもので埋めようとする。それが取り返しのつかないことだと分かっていながら……。その歯痒さがたまらず愛おしく感じる場面である。しかし、子供たちにとって親は、いつも、いつまでも親であり、その神話が崩れた時、子供の心は危ういバランスを崩してしまう。父は母の恋人に嫉妬する一方で教え子に手を出す情けない男で、弟の卓球の相手もまともにできない。母は、兄がいま抱き合っているガールフレンドと同じオンナである。そう思った時、二人は今までで一番「大人」になろうとするのだ。本作の一番の収穫は、その微妙な心理状態を見事に演じ切った子役二人にある。特に弟役のオーウィン・クライン(俳優ケヴィン・クラインとフィービー・ケイツの愛息!)の演技には目を見張るものがある。
 情けない人間たちによる、ひと周り大きな幸せ探し。その答えは家族の思い出にあった。兄の遠い記憶から甦る幸せの答えは、とてもちっぽけなもの。しかし、だからこそ忘れたくないと願わずにはいられない人間は、とても愛おしい。本作は、そんな未完成な人間の面白さを、充分に味わうことのできる作品だ。いや、味わうだけでなく、笑い飛ばしてしまえばもっと楽しくなる。(坂本亜里)

監督・脚本:ノア・バームバック
出演:ジェフ・ダニエルズ、ローラ・リニー、ジェス・アイゼンバーグほか
★12/2より新宿武蔵野館ほかにて公開
www.sonypictures.jp/movies/thesquidandthewhale/site/
# by switch-movie | 2006-11-17 00:05

観ておきたい映画4本 '06.Nov

『キング 罪の王』

観ておきたい映画4本 \'06.Nov_b0071697_1532658.jpg人々が笑顔を絶やさず自然と共生している村、それがトンマッコルだ。そこへ敵対する3人の兵士が現れるところから物語は険悪になっていく。チョン・ジョエンやシン・ハギュンといった旬の俳優たちの演技はキレがあり素敵だが、笑いと涙と切なさがファンタジーの世界で次々に交わり、その振り幅が現実世界を明示していると確信した時に、トンマッコルに強い共感を覚え、村はより一層輝いて見える。(坂本亜里)

監督:パク・クァンヒョン ★10/28よりシネマスクエアとうきゅう、シネ・リーブル池袋ほかにて公開




『マニアの受難』

観ておきたい映画4本 \'06.Nov_b0071697_1533686.jpg今年の春、日比谷野音で開催されたムーンライダーズ30周年記念ライブ。彼らの曲をゲストが歌い、ライダーズが演奏するという映像に導入され、日本音楽界の重鎮たちがそれぞれのライダーズを語っていく、という形式のドキュメンタリー。’80年代に彼らが放っていた超ハイセンスなオーラを感じ取ることは難しいが、ライダーズの存在を知らない人にとっても、日本語ロックの黎明期を知るチャンスになろう。(東屋雅美)

監督:白井康彦 出演:ムーンライダーズ、細野晴臣、高橋幸宏 ★12/16よりテアトル新宿にて公開




『恋人たちの失われた革命』

観ておきたい映画4本 \'06.Nov_b0071697_1534534.jpg『ギターはもう聞こえない』で知られる名匠フィリップ・ガレルが、息子のルイ・ガレルを主役に迎え3時間を超える巨編を完成させた。68年パリ、兵役を逃れた青年は混沌とした時代を目の当たりし愕然とする。そこで見つけた真実の愛。それはやはり、フィリップの亡き恋人ニコへの強い喪失感が反映されたものである。モノクローム映像の中で語られるひとつの時代の誕生と喪失はとても儚く、だからこそ美しい。(坂本亜里)

監督:フィリップ・ガレル 出演:ルイ・ガレル ★新年1/2より東京都写真美術館にて公開




『TOKYO LOOP』

観ておきたい映画4本 \'06.Nov_b0071697_1535349.jpg1906年4月、ジェームス・スチュアート・ブラックトンによりアニメーション映画が誕生してからちょうど100年が経った。これを記念し“東京”をテーマに16名の映像作家、漫画家などが集結しオムニバス作品が作られた。改めて静止画がコマとなり動き出すことに感動し、柔軟性に富むアニメ世界の奥行きに感心する。また、デジタルとアナログ、新進作家と大御所が対比され競演しているところが面白い。(坂本亜里)

監督:束芋、山村浩二、久里洋二ほか 音楽:山本精一 ★12/23よりシアター・イメージフォーラムほかにて公開
# by switch-movie | 2006-11-17 00:00




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