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Feature of the month '07.Jan

『魂萌え!』59歳、未亡人。第2の人生はじめました
Feature of the month \'07.Jan_b0071697_15383877.jpg
 第十九回東京国際映画祭のコンペティション部門の正式上映
。『魂萌え!』の上映が始まると、会場のあちこちから楽しげな笑い声が何度も聞こえてきた。五十歳を過ぎた専業主婦が、夫を突然亡くし未亡人となり社会に放り出される。学生時代の友人と集っては大きな声でしゃべり、息子と娘には彼らの都合が良いように振り回される。その翻弄されっぷりを、最初はリズミカルに描く。戸惑う姿そのものが笑えてくる。しかし、それも六十分を過ぎれば話は別だ。専業主婦がひとりのオンナとしてスクリーンに表出してくると、会場は静まりかえった。
 夫の葬儀を終えた日から、敏子の第二の人生は幕を開ける。夫が遺した携帯電話に見知らぬ女性から電話がかかってきたのだ。そして、明らかになったのは、夫が十年ものあいだ自分を騙し彼女と交際していた事実。亡くなった日も夫は彼女の元を訪ねていた。敏子を絶望に追い込んだのは、その女性が自分よりも年上で、いたって素朴な女性だったことだ。若さや美貌で夫を誘いこんだのではない。初めての対面で真っ赤な口紅をひいた敏子の勇姿がアップで映し出されても、もはや笑うことはできない。家庭を守り二人の子供を育てあげてきた自分の人生が、泡になって目の前を流れていった瞬間だ。さらには、息子が同居を強制してきて、夫の保険金まで算用し始める。そうして、家を飛び出した敏子は、いくつかの出会いを経て新たな生き方を見つけ出す。今まで生きてきた人生を否定するわけではない。夫や浮気相手を憎んでいるわけでもない。ただ、いま初めて妻でも母親でもオンナでもない、ひとりの人間としての自分がこの世にちゃんと存在するんだということを自覚したのだ。
 原作は、桐生夏生の新聞小説。監督は『どついたるねん』や『顔』『KT』などで知られる阪本順治。脚本も阪本が手掛けているのが驚くべき点である。女流作家の原作で、敏子の他にも多数の女性が登場する物語。それを男性の想像範囲で描けるものなのだろうか。本作の撮影現場に訪れた時、その動機をこのように話していた。「この映画に取りかかる前、自分はなんでこの仕事をしているんだろうと考えた時がありました。考えているうちにどんどん閉鎖的になっていく自分がいて、そんな時にこの原作を読みました。人とのコミュニケーションを通してどんどん扉を開けていく彼女に、自分が救われた気がしました」
 凛とした敏子の横顔が印象的なシーンがある。一度は気の許した男性に失望しひとり居酒屋で飲んだくれ、断念しかけた映写技師の弟子入りを宣言しに行った時。帰りの電車の中でこらえきれなくなった敏子は、新調したハンドバッグに嘔吐してしまう。それでも背すじを伸ばし、窓の外を見つめる彼女の目は、親しい友人とおしゃべりをする時より、優しく誘ってくれた男性と夜を過ごしている時より、強く輝いていた。外に群がる街の光を受けて、本当にキレイだった。(坂本亜里)

監督・脚本:阪本順治
出演:風吹ジュン、三田佳子
田中哲司、常磐貴子ほか
★1/27よりシネカノン有楽町、渋谷シネ・アミューズほかにて全国順次公開
# by switch-movie | 2007-01-19 00:05

観ておきたい映画4本 '07.Jan

『キムチを売る女』

観ておきたい映画4本 \'07.Jan_b0071697_15345745.jpg韓国アートフィルム・ショーケースとして4作品が連続公開される企画の要注目作品。第2のキム・ギドクとも呼ばれるチャン・リュルの監督作だ。犯罪に手を染めた夫を残し小さな息子を連れて田舎町へ越してきた女性の悲しみを描いている。その悲しみは民族の違いから起こる小さな苛立ちや、男性からの冷たい視線などによって、ゆっくりと憎悪に変化していく。その濁り方は不気味でもあるが実に繊細だ。(坂本亜里)

主演:リュ・ヒョンヒ ★1/27よりシアター・イメージフォーラムにて公開




『ルワンダの涙』

観ておきたい映画4本 \'07.Jan_b0071697_153579.jpg去年公開された『ホテル・ルワンダ』と同じく、わずか10数年前に起こった異民族間の大虐殺事件を描いた作品。BBCの元記者の体験をもとに、すべてルワンダで撮影を行っている。白人の視点から描いているのも大きなポイント。前出の作品に比べ、こちらはドラマチックに見えることを極力避けた分、残虐さと悲惨さが全面に押し出されている。主人公の神父と共にアフリカへ平安の祈りを捧げよう。(坂本亜里)

監督:マイケル・ケイトン=ジョーンズ ★1/27よりTOHOシネマズ六本木ヒルズほかにて全国順次公開




『マジシャンズ』

観ておきたい映画4本 \'07.Jan_b0071697_15351796.jpg95分間をワンテイク&ワンカット、しかも全篇ナイトシーンで撮影した意欲作。大晦日の夜に一軒のカフェに集まったかつてのバンドメンバーは、思い出話が尽きない。セットからセットへ俳優もカメラも移動し、時空間は過去と現在を自由に行き来していく。交差するそれぞれの思いがひとつの歌に昇華されていく様は実にドラマチックで、しかし、朝が近づくにつれて切なさがこみ上げてくる。(坂本亜里)

監督・脚本:ソン・イルゴン ★1/20よりライズXほかにて全国順次公開




『市川崑物語』

観ておきたい映画4本 \'07.Jan_b0071697_15343299.jpg名匠市川崑の生い立ちや軌跡を辿った本作は『犬神家の一族』の公開を記念し、岩井俊二の手によって制作されたもの。幼少期から太平洋戦争を経て、現在に至るまでのエピソードが、リズム感のあるサイレント形式で綴られる。大きな軸となっているのは、市川の妻であり脚本家の和田夏十とのラブストーリーだが、進むにつれて岩井の影が現われてくる。ふたりの作家の出会いと濃密な時間が、まぶしく映る。(坂本亜里)

監督・脚本・編集・音楽:岩井俊二 ★新宿ガーデンシネマほかにて全国順次公開中
# by switch-movie | 2007-01-19 00:00




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