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Feature of the month '06.Apr

『ロシアン・ドールズ』 僕は、恋愛小説が書けない作家
Feature of the month \'06.Apr_b0071697_20252599.jpg
多国籍の男女との共同生活を描いた映画『スパニッシュ・アパートメント』から五年、煮えきれない愛と夢を追いかけるグザヴィエ(ロマン・デュルス)が帰ってきた。三十歳になった彼は、夢だった小説家への足がかりは掴んでいるものの、ゴーストライターとして他人の自伝を書いたり、苦手な恋愛小説を書く毎日。本作は、そのグザヴィエが “どう生きるべきか”“誰と生きるべきか”を模索し奮闘する毎日を、仲間たちの姿と共に描いた群像劇だ。
『ルパン』『真夜中のピアニスト』と、クールな役どころが続いたロマン・デュルスだが、本作では、軽快なテンポと入り組んだ編集構成の中で、そのリズムにも乗りきれず、場面と場面の間でもつれるように存在しているから面白い。祖父からは“お前のフィアンセにはいつ会えるんだ?”と言われ、女友達に婚約者の演技をしてもらえるように頼み、かつての恋人だったマルティーヌ(オドレイ・トトゥ)とは、仲良くしながらも、洋服屋の店員に電話番号を渡す。しかし、彼はどの場面でも何ひとつスムーズに振る舞えず、そこが愛らしく親しみを持てるところだ。タイミングが悪く、ストレート過ぎる言葉は相手を傷付けてしまう。また、そのひとつひとつの行動からは、彼とってパーフェクトで、オンリーワンの女性を痛烈に欲していることが、ひしひしと伝わってくる。そうしてグザヴィエは、列車の中やアパートの部屋で、依頼を受けた“パーフェクトな恋愛ドラマ”を執筆しながら、物語と現実の違いに失望する。夢の中だけで生きたいと思う。しかし、「ラブストーリーは書けない」と彼が言い切ってしまうのも、それは、彼自身が今まさにラブストーリーで生きているのが原因に違いない。彼のような二流作家には、他人の自伝は書けても自分自身の物語は綴れない。彼はそのことに、最後の最後に気付く。愛や人生の謎は絶対に解けないこと、人は一生をかけて、幾重にも重なったロシアン・ドールズ(=マトリョーシュカ)の一番奥のひとつを見つけ出す運命にあることに。そんな長い旅の中にいる自分に少し疲れをおぼえながらも、楽しさを見つけるのがラストシーン。彼の言葉で言うと“恋の始まりは旅の始まりに似ている”ということだ。
 演技のテンポと、物語が進行するテンポとの掛け合いが軽快で、とても愉快になる。30代へのバイブル映画、とだけでは終わらせられないフランス映画の新しい脈がここにあり、『スパニッシュ・アパートメント』に比べ、監督セドリック・クラピッシュと役者たち関係が、より一層濃くなっているように思う。その絶妙なコンビネーションはグザヴィエを近くに感じさせ、すぐにまた、今後は40代のグザヴィエに出会える気がする。その時も、彼は目の前の女性について考えているのだろう。「彼女は、ロシアン・ドールズの一番奥に潜んでいた、僕の最後の恋なのか?」。彼はその時、どんな物語を書いているのだろう。(坂本亜里)

監督:セドリック・クラピッシュ
出演:ロマン・デュルス、オドレイ・トトゥ、セシル・ド・フランス、ケリー・ライリー
5/20よりシャンテシネ他にて公開
# by switch-movie | 2006-04-17 20:20

観ておきたい映画4本 '06.Apr

『バッシング』

観ておきたい映画4本 \'06.Apr_b0071697_207952.jpg自主製作ながら4度もカンヌ国際映画祭に作品を送り出している小林政広監督。本作は、04年に起こった日本人人質事件をモチーフに、「自己責任問題」で世間から激しい批判を受ける女性が登場する。映画という常に社会の影響を受け続ける表現の性格を感じさせつつ、しかし、これが批判にもニュースにもなり得ないのは、主人公の生き方を全面的に肯定し、普遍性を持たせ、ヒロインに仕立てたからである。(坂本亜里)

監督・脚本:小林政広 ★6月上旬よりシアター・イメージフォーラムにて公開




『ジャケット』

観ておきたい映画4本 \'06.Apr_b0071697_2072190.jpg瀕死状態の主人公(エイドリアン・ブロディ)が、人体実験をきっかけに92年と07年の2つの時空を超え、自らの死に向い、その理由と記憶の糸を探っていく。過去と未来を行き来するにつれて、だんだんと憔悴していくブロディの姿は切なく、しかし、『博士の愛した数式』や『エターナルサンシャイン』など、“記憶”にまつわる近作の中で、エンディングへ向かう加速と情熱は、それらを上回るものがある。(坂本亜里)

監督:ジョン・メイブリー★5/20東劇ほかにて全国公開




『間宮兄弟』

観ておきたい映画4本 \'06.Apr_b0071697_2073039.jpg江國香織の同名小説を森田芳光が映画化。大人になっても仲のいい兄弟の日常の物語。兄弟役の佐々木蔵之助と塚地武雅の息がぴったり。抑制の効いた演出とシュールな空気を久々に森田作品から感じ、ふと『それから』(86年)を思い出したりして嬉しい。観ていてあたたかな気持になる大人のファンタジー。余談だが、それにしても本作といいCMといい、最近の中島みゆきの存在感って、なんかすごい。(内田正樹)

監督:森田芳光 ★5/13恵比寿ガーデンシネマ、シネ・リーブル池袋ほかにて公開




『グッドナイト&グッドラック』

観ておきたい映画4本 \'06.Apr_b0071697_2073997.jpg1950年代、悪名高き「赤狩り」を展開したマッカーシー上院議員を真っ向から批判し、アメリカのジャーナリズム史に名を残したニュースキャスター、エド・マローを描いた本作。まずマローを演じたデビッド・ストラザーンの、剃刀のようにソリッドで、しかしどこか温かさを感じさせる演技に瞠目。そして、美しいモノクロの画面に、権力と闘う人々の迷いと潔さを浮かび上がらせた監督ジョージ・クルーニーの執念を感じた。(猪野 辰)

監督:ジョージ・クルーニー ★4/29TOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国公開
# by switch-movie | 2006-04-17 20:12




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