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Feature of the month '06.Sep

『百年恋歌』 音楽が呼び戻す、恋の瞬間的輝きと歓び
Feature of the month \'06.Sep_b0071697_16553691.jpg
 改めて、ホウ・シャオシエンという監督は“時間を描く作家”なのだと確信した。前作『珈琲時光』では東京を舞台に、ゆっくりと静かに、しかし確実に変化してゆく男女の夏を街ごと切り抜いた。本作では三つの時代をまたぎ、決して特別ではないが、いつまでも胸に残るような最良の時間たちを音楽と共に閉じ込めている。舞台は一九六六年のビリヤード場、一九一一年の遊郭、二〇〇五年の都会と三つの時代をまたぎ、オムニバス形式で連なっている。
 第一幕のビリヤード場は、音楽が主役だ。兵役中の若者(チャン・チェン)は、休暇が取れるとすぐにビリヤード場へ向かう。入隊前に恋に落ちた彼女(スー・チー)がその場所で働いているのだ。しかし、行ってみると彼女の姿はない。若者は彼女を探してバスに乗る。そこで流れるのが「煙が目にしみる」や「雨の涙」などのオールディーズナンバー。ビリヤード場に響く球を打つ音さえもひとつの音楽として、若者の切ない想いを語っている。音楽が、過ぎ去った記憶や感覚を呼び戻す装置にもなることを私たちはそこで改めて感じるのだ。驚くのは第二幕の「自由の夢」である。なんと、無音映像に続いて台詞が挿入される、いわゆるサイレント形式で作られているのだ。遊郭に通う外交官・チャンと芸妓との間に流れる穏やかで温かな時間。二人は芸妓と客という関係以上に結ばれているはずなのに、妾に迎えることはせずに異国へ旅立つチャン。極限までセリフが削られることで、二人の言葉にならない想いが自然と画面から流れ出し、その想いが深い部分では熱く通い合っているものであることが分かる。また、ここでも音楽が重要な鍵となっている。芸妓が「南管」と呼ばれる古曲を披露するシーンのみが、映像と音がシンクロするのである。芸妓の秘められた想いが、その場面では噴出し、音楽よって救われている彼女がそこにはいる。そして、第三部の「青春の夢」は舞台を現在に移す。ミュージシャンのジンは、カメラマンのチェンと恋に落ちる。しかし二人には互いに恋人がいた。それでも惹かれ合い、出口の見えない恋を続け、傷付け合う二人。第一部、第二部と比べ、男女の愛の吐き出し方は強く激しい。それはまるで、現代の窮屈な空気に咳き込んでいるようにも見えるから、たまらなく胸が傷む。
 三つの時代の、三組の恋愛物語。どのストーリーもハッピーエンドとは言えないが、この映画には、愛しい人と過ごした特別な瞬間が最高の輝きのまま収められている。その素晴らしい時間が、いつかの夜に見た“夢”ではなかったとはずだと、祈っているようにも見える。ホウ・シャオシエンは、その夢のような時間を映画によって追体験しようとしたのかもしれない。人間が持つ、限りある時間の中で、特別な光を放った瞬間。彼はそれを音楽によって引き戻し、映画の百三一分という時間の中に、永遠に閉じ込めたのだ。(坂本亜里)

監督:ホウ・シャオシエン
出演:スー・チー、チャン・チェン
★今秋、シネスイッチ銀座にて公開

www.prenomh.com
by switch-movie | 2006-09-19 00:05

観ておきたい映画4本 '06.Sep

『サラバンド』

観ておきたい映画4本 \'06.Sep_b0071697_16515690.jpgゴダール、ウディ・アレン、ジャームッシュなどが尊敬する監督として名前を挙げる“巨匠の中の巨匠”ベルイマンが20年ぶりに新作を完成させた。離婚後30年ぶりに再会した老夫婦の心の通い合いを描く中で、老いていく人間がそれでもなお抱え続ける憎しみや妬みの心、その荒々しさを伝えている。少ない台詞の間を抜けて、バッハの無伴奏チェロが激しい対話として聴こえてくるのがとても切ない。(坂本亜里)

監督:イングマール・ベルイマン ★10/21よりユーロスペースにて公開




『涙そうそう』

観ておきたい映画4本 \'06.Sep_b0071697_1652748.jpg相性のいい二人が、ベテラン陣に支えられて演じる淡い恋の模様。かなり遡ったたとえになるが、山口百恵と三浦友和がゴールデン・コンビと呼ばれた時代を思い出す。つまり、のちに長澤と妻夫木がこの作品を振り返った時、今しかできない事こそが若さだという事実を、きっと深く感じる。そんな役者にとっての古いアルバムみたいな存在になることを運命づけられた一本。二人のファンなら殊更におススメ。(内田正樹)

監督:八木康夫 出演:妻夫木聡、長澤まさみ ★9/30全国東宝系にて公開





『薬指の標本』

観ておきたい映画4本 \'06.Sep_b0071697_1652157.jpg小川洋子の同名小説がフランスで映画化。不慮の事故で指先を切ってしまったイリスは、新しい仕事として標本技術士のアシスタントをはじめる。イリスは技師に夢中になっていくが、面白いのは、イリスに起こる出来事を彼女の肉体を通して描いているところである。観客は少女の無防備さが持つ美しさと危うさをリアルに感じ、イリスが変化していくのをチクチクと肌で感じながら観ることになる。(坂本亜里)

監督:ディアーヌ・ベルトラン 出演:オルガ・キュリレンコ ★9/23ユーロスペースにて公開






『カポーティ』
観ておきたい映画4本 \'06.Sep_b0071697_1652234.jpg本作で描かれる作家カポーティの“いやな奴”ぶりといったら、編集者としては“絶対近づきたくない”と思わされる。けれど一方で、この傲慢な作家の魅力的な話術や繊細で力強い小説が、“いやな奴”であればあるほど輝きを増すのだということを、フィリップ・シーモア・ホフマンの演技を通じて思い知らされる。そして『冷血』という書名が、事件の犯人ではなくむしろカポーティ本人に重なっていくのだ。(猪野 辰)

出演:フィリップ・シーモア・ホフマン ★9/30恵比寿ガーデンシネマほか全国公開
by switch-movie | 2006-09-19 00:00




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