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Feature of the month '06.Jun

『ローズ・イン・タイドランド』 天才映像作家と天才子役の共通点
Feature of the month \'06.Jun_b0071697_172837.jpg
 お母さんはクスリのやりすぎで死んじゃった。お父さんは「バケーションに行ってくる」って言ったきり目を覚まさない。古いおうちでひとりっきりのジェライザ=ローズのお友達は、頭だけのバービー人形たちだけだ。近所には黒づくめの服を着た魔女のような女とちょっと頭の足りない男がうろつく。そんな状況を生きるジェライザ=ローズは不幸なのだろうか?
 子供の頃、半径五〇〇メートル以内くらいの行動範囲を探検し新しい発見をすることに喜びを覚えたり、チラシの裏にお絵描きすることに一日中没頭していたり、ナイロンの髪の毛が絡まってぐちゃぐちゃになったリカちゃん人形を大事にしていた思い出がある人も多いのではないだろうか。毎日、朝目覚めてから夜眠りにつくまでが新しい体験の連続で、それをルーティーンなどと呼ぶ日が来るなんて子供は考えもしない。そういう気持ちを大人になるとどうして忘れてしまうんだろう。『ローズ・イン・タイドランド』を観ていると、幼少時代の小さな世界を懸命に生きていた頃を思い出す。対比するものがないから、幸せも不幸も主観的判断でしかない。それはジェライザ=ローズにとっても同じだったはずだ。パパ(ジェフ・ブリッジス)もママもある程度世間を知ってしまった者の目から観れば“親失格”のダメ人間だが、ジェライザ=ローズはそんなこと知る術もない。首だけのバービー人形との会話だって、小さな自分のなかにいるたくさんの別人格と会話しているだけだ。
 そういった誰もが経験しているのに成長するにつれて忘れて来てしまったもの(あるいはいらないと判断されたもの)を、テリー・ギリアムは何の抵抗もなく描き出す。彼自身も家族を持ち、ハリウッドで大作映画を撮ることができる社会性の持ち主でもあるのに。ではなぜ、ギリアムとジェライザ=ローズを演じた天才子役ジョデル・フェルランドは共通言語を持つことができたのだろうか。ジョデルに関して言えば、彼女こそ何本もの映画に参加している女優としての顔と、キティを愛する子供の顔の境界線(タイトルの『タイドランド』とは干潟を意味し、境界線と捉えることもできる)を体現している存在なのだ。ジョデルはそのふたつのアイデンティティを共存させるために何かを心がけているかと言うと、そういうことではない。十一の歳の少女にできることーーそれは、なにごとにも判断を下さないということだけだろう。そして、それこそギリアムが映像作家としてずっと持ち続けている“強み”であると思う。
 ギリアムの演出は、ジェライザ=ローズの状況にも、両親のダメ具合にも、剥製作りが趣味の黒魔女の行動にも、良識のある大人が下す判断を一切介入させない。社会人としてはそれが時に仇となり『ロスト・イン・ラマンチャ』のような事態を招くこともあるが、この作品によって、まだまだこの天才作家は枯れまい、という確信を持った。(平井伊都子)

監督:テリー・ギリアム 出演:ジョデル・フェルランド★7/8より恵比寿ガーデンシネマ、新宿武蔵野館にて公開

www.rosein.jp/
by switch-movie | 2006-06-19 00:05

観ておきたい映画4本 '06.Jun

『弓』

観ておきたい映画4本 \'06.Jun_b0071697_17432012.jpgベルリン国際映画祭のフィルム・マーケットでは、1枚のポスターとあらすじだけで十数カ国の映画会社が版権契約を結んだという注目作。船の上で暮らす60歳の老人と16歳の少女、そこに突如現われる青年との三角関係を描いた。老人から少女へ果てしなく注がれる愛は、ピュアでありエロスでもあり、そのすべてを許すように映画が存在しているところが奇才キム・ギドクの懐の深さだ。(坂本亜里)
出演:ハン・ヨルム ★8月Bunkamura ル・シネマほかにて全国順次公開




『カーズ』

観ておきたい映画4本 \'06.Jun_b0071697_1743311.jpgこの映画を観ると日米クルマ社会の成熟度の差を痛感。クルマのキャラクター設定や背景がマニアックなまでに克明なのに、それが子供にも楽しめるように描かれているのだ。カーアクションは度肝を抜かれる迫力で、かつリアル。そのデッド・オア・アライブなスピード感がこれまでのディズニー&ピクサー作品の一線を越えた感はあるものの、衰退著しいアメリカの自動車産業へのオマージュも含まれていて胸にせまる。(青木雄介)

監督・脚本:ジョン・ラセター ★7/1より日比谷スカラ座ほか全国公開




『胡同のひまわり』

観ておきたい映画4本 \'06.Jun_b0071697_17431568.jpg胡同(フートン)とは、中国の伝統的な民家が立ち並ぶ路地のこと。強制労働によって絶たれた画家の夢を息子に託し、厳しい教育をほどこす父親。反抗し続ける息子との30年に渡る葛藤が、その路地裏を舞台に語られる。父親の愛情表現の不器用さが、変わりゆく北京の街並みとも重なり切ない。父親がだんだんと小さく見えるのは、きっと、画家として成功していく息子に幸せを分け与えていたからだろう。(坂本亜里)

監督・脚本:チャン・ヤン ★7月Bunkamuraル・シネマほか全国順次公開




『colors』
観ておきたい映画4本 \'06.Jun_b0071697_17431032.jpg病気で死にゆく男、独房で死を待つ女など、様々な事情をかかえた人々が迷い込んだのは、色とりどりの箱。そこで展開される会話劇をテンポよくポップにまとめたセンスは、23歳の監督ならではのフレキシブルなアイデアに因るものだ。劇的なストーリーよりも、ささやかな日常の中に幸せを見つけた時のロマンチック。それが密室という状況に演技のエンジンをふかす俳優たちの力も借り、キラキラと光っている。 (坂本亜里)
監督:柿本ケンサク 出演:村上淳ほか ★7/15渋谷シネ・ラ・セットにて公開
by switch-movie | 2006-06-19 00:00




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