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Feature of the month '06.May

『エドワード・サイード OUT OF PLACE』 記録と記憶をたどるドキュメントムービー
Feature of the month \'06.May_b0071697_15461017.jpg
二〇〇三年九月、エドワード・サイードが亡くなった。翌年十二月にはスーザン・ソンタグも他界。アメリカを拠点に、世界に警鐘を鳴らしつづけた二人の死はあまりに大きく、アメリカのみならず、世界にとっての重大な喪失だった。彼らの叡智と良心、魂の叫びのような言葉の数々を、もはや私たちは過去にしか探せないのだ。ソンタグの訃報を知り、その事実をあらためて感じながら暗澹たる気分になったときのことを、この映画を見ながら思い出した。
 著名な文学研究者・批評家であり、パレスチナ問題の代表的な論客として知られるエドワード・サイードは、右傾化するアメリカの言論界において勇気ある発言を続けた一人だ。映画はそんな彼が世界に残した痕跡を探すかのように、彼にゆかりのある土地を訪ね、彼を知る人々に話を聞く。
「父は自分の非力さに罪悪感を抱いていた。もっと何かができるのではないかと思っていた」と語る息子の言葉や、「私にも父と似たような断絶があって、アメリカ人でありながらここに本当には属していないと感じている」という娘の言葉からは、パレスチナ人としてサイードが抱く故郷への思いや葛藤が感じられる。
この作品は、よくあるドキュメンタリーのように、取材対象をカタログ的に見せることはしない。サイードの著作を読み、彼の言葉に直に触れることが彼を知る最良の方法だ。だからサイードの生い立ちや、彼がどういう考えを持ち、どのような発言をしたかを知りたい人にとっては物足りないかもしれない。この映画が私たちに見せるのは、サイードのより内面の世界、より曖昧な境界線上にある世界だ。妻マリアム・サイード氏が「エドワードは出てこないのに、映画の隅々までエドワードの存在に満ちあふれている」と評するように、まさにこの映画自体がエドワード・サイードを探す旅であり、同時に、彼自身が探したものを探す旅になっている。サイードが教鞭をとっていたコロンビア大学のゴーリ・ビスワナサン氏の言葉は、その旅の道標といえる。
「異なる流れが彼のなかを通り抜けていくという考え方は、彼自身の祖国喪失者としての生き方、追放されたという感覚を語りながら、同時に、その追放を必ずしも否定的なものとしないための彼なりの方法だった。恨みや怒りで対処するのではなく、エドワードはこの多様性の瞬間を糧にひとつの哲学を編み出したのであり、それが生涯を通じて彼を支えるものとなったのだと思う」
エドワード・サイードは闘う人だった。その内的な闘い、極めて個人的で内省的な闘いの果てに、彼は世界を許容するような境界線上のあり方、すなわち“out of place”という大らかな哲学にたどり着いた。この大らかさに彼は未来を託したのだろう。映画にはサイードの姿は映らないが彼の声はしっかりと見るものに届く。今改めて、彼の不在を惜しむ。(井上麻子)

監督:佐藤真 ★アテネ・フランセ文化センターにて公開中。また、梅田ガーデンシネマ、京都シネマほかにて順次公開予定
www.cine.co.jp/said
by switch-movie | 2006-05-19 00:05

観ておきたい映画4本 '06.May

『13歳の夏に僕は生まれた』

観ておきたい映画4本 \'06.May_b0071697_10575743.jpg『輝ける青春』で6時間6分の大作を完成させ賞賛を浴びたマルコ監督の最新作。裕福な家庭で暮らす少年は、クルージングの途中で海に落ち不法移民たちがひしめく密漁船に救われる。彼がそこで見たのは食料も乏しい地獄の世界。船上で揺れ動く現実を少年の目線で描くことにより、イタリアの社会問題は生々しく映る。しかし、少年の成長物語としても受け取れるのはマルコの実力によるところだろう。(坂本亜里)

監督:マルコ・トゥリオ・ジョルダーナ ★5月下旬Bunkamura ル・シネマほかにて全国順次公開




『ココシリ』

観ておきたい映画4本 \'06.May_b0071697_1543552.jpg中国が原始のまま残る秘境「ココシリ」は、チベットカモシカの生息地として知られている。しかし、密猟と乱護により数は激減。本作は死と背中合わせの環境で「ココシリ」を守るパトロール隊と密猟者との壮絶な闘いを描いた実話ベースの作品だ。映画の描き手は、どちらにも荷担しないスタンスを保ち、その理由は、密猟者がなぜそれに手を染めたのかを知ることで理解できる。生きることは常に試練なのだ。(坂本亜里)

脚本・監督:ルー・チューアン ★6月シャンテシネほかにて全国順次公開




『トランスアメリカ』

観ておきたい映画4本 \'06.May_b0071697_1544676.jpg男性であることに違和感を持ち、完璧な女性になるための手術を控えた主人公ブリーの前に、突然ひとりの少年が現れる。彼は男性だった頃に出来た実の息子だった。旅の道中で繰り広げられる二人の会話はユーモラスで時に切なく、ハフマンの演技にはワクワクできる。“スカートの下に何があるかよりも大事なこと”というフレーズに引っ張られ、心の下にある本当の気持ちがポロッとこぼれ落ちそうになる。(坂本亜里)

監督:ダンカン・タッカー 出演:フェリシティ・ハフマン ★7月シネスイッチ銀座ほかにて順次公開




『GET RICH AND DIE TRYIN』

観ておきたい映画4本 \'06.May_b0071697_1544156.jpg「I'll Whip Ya Head Boy」でフロントミラーを震わせ強盗に向かうオープニングから、掴みはバッチリ。銃弾を9発受けた50セントの半自伝的Gムービー。父親を知らず、ドラッグディーラーの母親を8歳で殺害される。そんな実人生がドラマティックに脚色されはするが、ブラックコミュニティのある種の“真実”を射抜く。ただしあまりの劇画的キャラゆえに『8マイル』的盛り上がりは期待できないかも。(青木雄介)

監督:ジム・シェリダン 主演:カーティス“50セント”ジャクソン ★6月シネマライズほかにて公開
by switch-movie | 2006-05-19 00:00




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