45 「即興的散文」とはなにか

サル・パラダイスとディーン・モリアティというふたりの青年が、アメリカを放浪者のように旅をしていく様子を描き出したケルーアックの文章は、「スポンテイニアス・プローズ」と呼ばれた。「即興的散文」だ。放浪の旅という体の動き、そしてそれにともなう思考や感情の動きを、動きのままに文章へと移し替えていく。文章だけが興にまかせて垂れ流されるのではなく、文章よりも先にまず体の動きがあり、それにともなって必然的に起こってくる思考や感情の動きが、それに続く。自分が体験していくそのようなさまざまな動きに対して、自分が忠実なままであるかぎり、文章も動きをそのままに写し取る。「即興的」とは、そのような意味だ。ケルーアックが『路上にて』で試みた文章は、体の健康さのようなものが忠実に反映された、きわめて健全なものであり、すこやかですらある、と僕は感じる。
by yoshio-kataoka
| 2006-11-14 22:10