41 占領下のペーパーバックが三冊

僕が子供の頃に自宅にあったペーパーバックだ。ほかにもたくさんあった。玩具にして遊んでいたから、この三冊にも見覚えはある。大半は散逸してしまったが、たとえばこの三冊のように、いまでも僕の手もとに少しは残っている。
戦争で外国の戦場に出ている自国の兵士たちのために、アメリカ軍は本を送る運動を始めた。初めのうちは民間から寄付された本を前線に送っていた。百万単位で増えていく寄贈本は、一千万冊にも達するかというところまでいったのだが、寄付ではとうていまかないきれないほどに戦線は拡大され、動員される兵士の数は増え続けた。
民間の出版社に協力してもらい、アメリカ軍が独自に前線用の小型本を製作することになり、エディションズ・フォ・ジ・アームド・サーヴィセズという非営利の共同事業組織を創設し、そこが兵隊用のペーパーバックを作って海外の戦場へ送り出し始めた。
この当時の戦争では、前線の兵士たちにとっては待ち時間が多く、それをどう過ごすかは、軍にとってたいへんに重要な問題だった。動員を待っているあいだ。動員されて目的地へと向かうあいだ。戦場で位置につくまで。戦闘へと動員されるまで、待機している時間。こうした待ち時間の兵士たちには、本を読ませておくのがいちばんいい、とアメリカ軍は判断した。
すでに本になっている数多くの作品のなかから、委員会が選んだタイトルを、協力していた出版社が印刷し製本した。一九四三年から四七年までのあいだに、こうして作られた兵士用のペーパーバックは、一千タイトルを越え、製作部数の総計は一億二千万冊を越えたという。戦争が終わったあとも、二年間にわたって製作が続けられたのは、たとえば日本を占領していたように、戦後の処理を海外のあちこちでおこなう軍人がたくさんいたからだ。
戦争中に製作されたペーパーバックは横長の小型本だったが、戦後になると、背丈の低かった頃の標準的なペーパーバックのサイズとなった。ここにある三冊は戦後のものだ。一九四二年から四五年にかけて、『サタデー・イーヴニング・ポスト』という家庭雑誌に掲載された短編を編んだ一冊。ヴェラ・キャスペーリーの、高度と言うなら思いっきり高度なミステリー。そしてパット・スティーヴンス保安官が活躍する、西部劇ミステリー。
一冊それぞれ単独でも、あるいは三冊揃っても、いまだに濃厚にただよう独特な雰囲気は、写真に撮りたい気持ちを僕に起こさせる魅力を持っている。

by yoshio-kataoka
| 2006-10-17 11:28