27 人称語を題名にして五百万部

一九七十年にHerというタイトルで第一作がバンタム・ブックスから刊行された。いつまで続き何冊が刊行されたのか僕は知らないが、手もとには写真の八冊が残っている。Herの次はHim、そしてI、Me、Them、Us、Youと続き、おしまいのほうではTwoやWomanといったタイトルになったようだ。著者はアノニマス、つまり匿名という人だ。
内容はソフトなポルノグラフィと言っていいだろう。男と女のさまざまな組み合わせのなかに、肉体の関係と同時に感情の関係の可能性を模索する、というような方向かと思うが、男は男としてきわめてはっきりと、もはやこれ以上にはどうにもならないほどに男として硬化したありかたであり、女性のほうも負けず劣らずだから、どんな関係を想定しても、そしてそこにどのような感情の物語を組み立てても、決定的な退屈さは最後までつきまとう。
Usの一九八一年、十三刷りの裏表紙には、このアノニマスのシリーズは五百万部を売ったとうたってある。日常の現実のなかではなかなか作れない関係でも、小説のなかにはいくらでも作ることが出来る。ヴァリエーションの少ない関係の内部に固定されていた多くの人たちが、関係の多様性を夢見て、このアノニマスのシリーズを読んだのだろうか。
by yoshio-kataoka
| 2006-08-04 16:16