26 下北沢で明日に手をのばす

一九五六年にバランタイン・ブックスから刊行された、アーサー・C・クラークの『リーチ・フォー・トゥモロー』だ。下北沢の古書店で、その当時に買った。これはまだ輪郭のはっきりした記憶として、僕の頭のなかにある。おなじ古書店でほぼおなじときに、バランタインからすでに出ていた『幼年期の終わり』や『宇宙への序章』『アースライト』などを、ひとまとめに買った。おなじ人が売り払い、それを僕が買ったのだ。所有者として僕は二代目だ。そのことは本の様子からいまでもよくわかる。けっして傷んではいない状態は、古本のペーパーバックとしてはグッド・コンディションだ。その状態がどの本にも共通している。そしてそれらを僕はそのままにずっと持ち続けてきたから、いまでも買ったときの状態が残っている。
表紙絵が横置きの画面になっている。これはたいへん珍しい。何冊ものペーパーバックを僕は手にしてきたけれど、表紙絵が横画面になっているものは、この一冊だけだ。明日、つまり未知の宇宙空間を、一九五十年代の人が心象風景のようにイメージすると、この絵のような世界となった。この絵だけでも貴重だと僕は思う。このような絵を描くことの出来る人が、いまはもう絶滅している。
雑誌その他に発表されてコピー・ライトが発生した年で言って、一九四六年から一九五三年までの短編が、このペーパーバックに収録してある。このかたちで本になったのはこれが初めてであり、すでに刊行されていた本のリプリントではなく、バランタインのオリジナルだ。一九四五年に書き、雑誌に売れた最初の作品となった『レスキュー・パーティ』が、冒頭に収録してある。どの作品も少なくとも一度は雑誌に売り、原稿料にしてくれたことに対して、エージェントだったスコット・メレディスへの謝辞が寄せてある。
by yoshio-kataoka
| 2006-07-31 12:47