ペーパーバックの数が増えていく TEXT+PHOTO by 片岡義男

20 アメリカの戦争体験

20 アメリカの戦争体験_b0071709_1157096.jpg 『汽車を待つあいだの短い時間』という題名は素晴らしい。僕が仮に翻訳した日本語よりも、英語のままのほうがもっといいのは、言うまでもない。ビトウィーン、という一語をどう受けとめればいいか。すでに出た汽車とその次の汽車とのあいだのことか、それとも、汽車を乗り換えるあいだのことか。この短編集に収録してあるひとつの短編の題名が、そのままアンソロジーぜんたいの題名ともなっている。ちなみにその短編は、戦争という極限的な状況のなかですら消すことの不可能な、人種差別を主題にしている。
 なんらかのかたちで戦争を主題にすえた、アメリカの作家たちによる、二十二編の短編がこの一冊のなかにある。ペーパーバックになったのは一九九一年のことだ。東京で買った。二千円ほどもしただろうか。本、特にアメリカのペーパーバックは、買いやすい。あ、これは、とちょっとでも思ったなら、とにかく買っておけばいいじゃないか、というきわめて純粋に反射的な行為として、ペーパーバックを買ってしまう。四百二十ページのなかに、すぐれた作家たちによる二十二とおりの戦争がある。いちばん最初にあるアンブロース・ビアースの『行方不明のひとり』という作品から、その戦争のなかに入っていくことが出来る。最後にあるティム・オブライエンの『幽霊兵士たち』までたどりつくと、一冊の短編集のなかに入り込んで過ごした想像力の体験は、自分に一生ついてまわるだろう。
by yoshio-kataoka | 2006-07-07 10:55




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