19 野球ミステリーに挑戦しないか

野球ミステリーが三冊、僕のところにあった。もっとたくさん書かれているはずだ。子供向きのものも含めると、すでにかなりの数になるのではないか。ミステリーを好んで読む人が、野球も大好きだったら、野球ミステリーは盆と正月ではないか。野球とミステリーを合体させる試みは、作家にとって挑戦のしがいのあるものだと僕は思う。パシフィック・リーグの開幕試合と同時進行する、何組かの男女の埒もない話、という長編をかつて僕は書こうとしたことがある。実際に開幕試合を見にいき、プレイ・バイ・プレイの詳細なノートを作ったのだが、小説はいまだに書いていない。
ここにある三冊はいずれもタイトルが素晴らしい。『リグレー・フィールド殺人事件』は、誰かがいつかは書かなくてはいけなかったものだろう。日本国内の鉄道や観光地での殺人事件ミステリーよりも、メジャー・リーグのミステリーのほうが、書くほうにとっても何倍か面白いのではないか。『ヤンキー・スタジアム殺人事件』『セーフコ・フィールド殺人事件』と、いくつでも書くことが出来る。デイヴィッド・エマソンの『自殺スクイーズ』は、意表をついた題名だ。かつてメジャーでプレーをし、ほんの少しだけの実績を残していまはイリノイ州で私立探偵をしている男が主人公の探偵役で、舞台はリグレー・フィールドだ。『殺されたひっぱり打者』というタイトルも悪くない。著者はアリスン・ゴードン。『トロント・タイタンズ』という架空の新聞の女性スポーツライター、ケイト・ヘンリーが主人公だ。「プレイ・バイ・プレイの描写が素晴らしい」という賛辞が寄せてある。
『リグレー・フィールド殺人事件』の探偵役は、この球場で長年のあいだ野球を見てきた、ヴェテランのスポーツライターだ。サイ・ヤング賞を取った左腕が一九〇八年以来の優勝をシカゴ・カブズにもたらそうかというとき、スタジアムの下にあるトンネルのなかで、その投手は射殺死体となって発見される、という発端のようだ。ふたりの人が共作しているこのミステリーのシリーズには、『血を流すドジャー・ブルー』という作品もある。
無理して殺人事件を創作しなくても、野球のなかには興味つきることのないさまざまな謎が、いくらでもある。それをひとつずつ見つけては、面白い小説にしていく作業は、作家冥利につきるものであるはずだ。
by yoshio-kataoka
| 2006-07-03 12:59