ペーパーバックの数が増えていく TEXT+PHOTO by 片岡義男

16 8ボールの向こう側

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 ウオルター・S・ティーヴィスの『ハスラー』という小説の、版違いの二冊だ。左にあるデル・ブックスの小さいサイズは、一九六四年の初版だ。そして右のはワーナー・ブックスからの一九八四年のリイシューだ。内容はまったくおなじだからどちらで読んでもよさそうなものが、僕はデル・ブックスでないとその気になれない。何度もこれで読んだから、余計にそうなのだろう。二十代なかばに最初に読んだときには、本当に夢中になった。
 第一章から素晴らしい。シカゴのダウンタウンにある、見栄えのしない平凡な八階建ての建物の最上階に、ベニントンズという名のプールホールがある。泳ぐプールではなく、玉突きのプールだ。プール・テーブルが二十二台ある。朝の九時に掃除を担当する黒人があらわれる。朝、ここへ最初に来てドアを開けるのは、彼だ。窓を開けてドレープを左右へ開く。窓からは朝陽が差し込む。モップでフロアを掃除する黒人のほかには、誰もいない。煙草の匂いの沈殿した淀んだ空気が、窓から外へ出ていく。外から風が入って来る。陽のなかに埃が舞う。朝のプール・ルームの造作とそのディテール、そしてぜんたいの雰囲気が、教会になぞらえてある。午前中のうちにいろんな人が出勤してきて、最後に支配人があらわれる。彼はラジオをかける。そのラジオから流れ出て来る音楽を形容する言葉として、「ハーフ・リアル」という言葉が使ってある。そのとおりではないか。まさにあれは「ハーフ・リアル」だ。
by yoshio-kataoka | 2006-06-23 16:24





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