14 「コールドウェル・イズ・グッド」

コールドウェルの短編全集を彼女のいるレジへ持っていき、代金を払おうとしたら、「イエス、コールドウェル・イズ・グッドよ」と言った。「グッドよ」というような言いかたは、日系二世のものだ。少年の僕を相手に気を抜いているときなど、ふと出てしまうのだろう。
なぜコールドウェルは「グッド」なのか、彼女は僕の目の前で証明してくれた。僕が買おうとしたこのペーパーバックに収録してある最初の短編の、第一ページを開き、その最初の一節を、彼女は音読してみせた。読みながら彼女は、右手のまっすぐにのばした人さし指の側面で、レジスターの置いてある台の縁を叩いてリズムを取った。コールドウェルの文章のなかにある抑揚や強弱など、音声としてあらわれるすべてが、彼女が指で叩くリズムに完璧に乗るのだった。「シー、ユ・ノー・ホワット・アイ・ミーン」と彼女は言った。「ね、わかるでしょう」という意味だ。僕もいろんな人からいろんなかたちで、貴重な薫陶を受けている。
by yoshio-kataoka
| 2006-06-16 17:39