ペーパーバックの数が増えていく TEXT+PHOTO by 片岡義男

12 ニューヨークの地下鉄小説

12 ニューヨークの地下鉄小説_b0071709_11411140.jpg 題名にある「ペラム・ワン・トゥー・スリー」とは、ペラム・ベイ・パーク駅を午後一時二十三分に始発で出た列車、という意味だ。マンハッタンの地下を走るこのレキシントン・ラインの地下鉄をハイジャックし、乗客を人質に取り、身代金を要求して現場まで運ばせ、それを受け取って逃げる、という設定のサスペンス小説だ。身代金は百万ドルで、それをハイジャックの実行者たち四人が均等に分配するという。本気ですか、と誰もが思うような設定だ。計画どおりハイジャック出来たとしても、どれもみなそれぞれにやっかいな、数多くの問題をクリアしなくてはいけない。そして身代金の要求と受け取り、さらには地下鉄のトンネルからの逃走という、うまくいかなくて当然のような難関を、突破しなくてはいけない。
 しかし読んでみるとこれがたいへん面白い。巧みによく書けている。四人の実行者たちのうち、もっとも臆病で神経質な、したがって予期せぬ突然の展開を前にしてパニックにおちいりそうな男性に関して、著者はもっとも多くの言葉を使っている。だからこの男だけが、身代金の分け前を持って、ひとまずはトンネルから脱出するのだろうな、という程度までなら予測がつく。そしてそのとおりになる。路上へと出た彼がアパートメントの部屋に戻り、すぐに刑事の来訪を受けてパニックを起こし、あっさりと逮捕されるまでの、ごく短く簡潔に語られる展開の部分が、もっとも面白い。
「やがて大作の映画になる」と、書評の賛辞を集めたページにうたってある。映画になって日本でも公開されたような記憶がある。なんという映画で、誰が出演したか。見たいものだ、と僕は思う。
by yoshio-kataoka | 2006-06-09 11:44




ページの上へ