ペーパーバックの数が増えていく TEXT+PHOTO by 片岡義男

1 僕はここから始まった

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 シャーウッド・アンダスンの『ワインズバーグ・オハイオ』をペーパーバックで読んだのは、一九五六年の夏の終わりだった。そのペーパーバックを僕はいまでも持っている。なぜだか手もとにとどまり続けたからだ。写真のなかではいちばん右側にあるのがそれだ。他の三冊は、おなじこの作品が、ペンギン・ブックスによって版を変えるたびに、買っておいたものだ。
 十六歳の高校生だった僕は、『ワインズバーグ・オハイオ』を読んでほんとうにびっくりした。小説とは言葉でこういうことをするものなのか、という最初の大発見をしたのだから驚きは当然だし、それがいくら大きくても深くても、そのことに不思議はなにもない。物語を書くことがなくもない、という程度の書き手としてのいまの僕は、この驚きから始まっている。
 もう二十年以上も前、湯島の小料理屋でアメリカのジャーナャストの友人を相手にこの話をし、作家としての僕は『ワインズバーグ・オハイオ』から始まっているのだと説明したら、そういう人がアメリカだけではなく世界じゅうにたくさんいるんだよ、とその友人は笑っていた。
by yoshio-kataoka | 2006-04-26 10:41




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