ビーチサンダル・クロニクルズ TEXT+PHOTO by 今井栄一

052【ブリティッシュ・コロンビア、モロカイ島、グレートバリアリーフ、ハワイ島】

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 10月。
 もうすっかり忘れてしまいそうだけれど、今年の夏は暑かった。いや、「熱かった」と書くべきか。東京の都心に暮らし活動していると、ときどき路上で息苦しいほどの熱気に見舞われたりした。
 新聞やテレビに表示されるウエザーリポートの最高気温とは、どこかの芝生の上に置かれた百葉箱での気温だから、それは渋谷ハチ公前交差点での気温とはずいぶん違うだろうと思う。もしテレビで「都心の最高気温が37度」とあれば、ハチ公前交差点の午後2時ちょうどの気温は、きっと、いや間違いなく、45度をゆうに超えていたのではないか。
 とにかくそれくらい熱かったはずなのに、10月の今日、もうそんな日々のことが遠くなっている。
 10月7日の朝。とても爽やか。秋の陽射しが眩しい。
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 もう何年も前の話。
 当時、ときどきご飯を食べたりバーで飲んだりしていた仲良しの女性がこう言っていた。
 「人間って、何事にもすぐ慣れちゃう動物だから」
 そのとき彼女が言っていたのは彼女自身のことだったのだけれど、「誰でも同じように」という意味でもあると思う。
 彼女はその頃ちょうど離婚した直後で、つまり僕と彼女はひとつの恋と結婚と破局についてその夜、延々話していたわけだ。アイリッシュ・ビールに始まり、イタリアン・ワインへと移行し、真夜中を過ぎてからはモヒートやらマルガリータやら強めのカクテルを飲み・・・。
 結論として、彼女は自分の今(その時、という意味)について、ただひと言、そう表現したわけだ。「なんでも慣れちゃうものだから」と。
 「恋も最初はエキサイティングだけれど、すぐに慣れる。だから次の興奮を求めて結婚する。その生活にもすぐ慣れる。それで問題をわざと作って離婚する」というのが、彼女の理論。その時の。今は変わっているかもしれない。もうずっと会っていないから確かめられないけれど。
 確かに僕らは慣れてしまう。なぜなら嘘つきで下品でどんな殺人者よりも悪人である政治家と官僚しか存在しないこの国の生活にすっかり慣れ親しんでいるし、原爆を落とされた上に地震多発地帯であるにも関わらず無数の原発があるという非常に危険な状況にも、慣れてしまっている。慣れ、というよりも、むしろそれは、無関心、ということかも。無知と傲慢と無関心。
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 夏の「熱さ」にも、慣れてしまう日は近いのだろう。温暖化にも慣れてしまうし、30年後には僕らは、ポーラーベアの消えた世界にも慣れているだろうか(このまま温暖化が進むとポーラーベアは30年後に消滅しているという。遅くとも30年後、という意味で。事実はもっと早いのかもしれない)。
 毎年、毎年、少しずつ熱くなっているように感じる日本の夏。その猛暑にもやがて慣れ、猛暑という言葉すら使わなくなる日がやって来るのだ。気温30度くらいが通常で、35度くらいでやっと「今日は暑いね」と人々が言い合い、40度を超えた日には「いやぁ、今日はけっこう暑い1日だったねぇ」などと言って冷たいビールをごくごくっと飲む。
 この夏、北極海では、日本列島を全部合わせた面積の3倍以上の氷が1か月で溶けてしまったそうだ。
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 そんなこの夏は・・・ブリティッシュ・コロンビア州のオカナガン地方を車で旅し、ハワイのモロカイ島に長く滞在し、その後、熱い熱い東京の日々があり、オーストラリア、グレートバリアリーフの海を船と双発機で旅した。そして数日前、ホノルル経由でハワイ島から帰ってきたところ。
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 今、日曜日の朝で、東京の自室でMarcos Viniciusのギターを聞いていたらふつふつとまた旅のことを書こうと思い、これをやっと書いている。やれやれ。「書かない」ことにも人間はすぐ慣れてしまうのだ。たとえそれが仕事であっても! 書く筋肉がすっかり落ちてしまった、書く体力が落ちてしまった。直さないといけない。運動しよう、Macに向かって指を動かさなければ。このMacパワーブックG4は誰よりも僕の10本の指のことを熟知している。きっと僕の思考回路や「次に何を書こうとしているのか」ということまで何もかもコイツは知っている。いろんな運動があり、そこからいろんな思考が生まれる。僕の運動は書くことなのだから、やらなければ。
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 10月、秋の日曜日の朝。なんだか、何もかもが懐かしい。だから、少しずつ、懐かしいことを書こう。懐かしく、温かく、忘れたくないものたちのことを。慣れによって忘れてしまったり、いつの間にか過ぎ去ることのないように。
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<今回の旅のヘヴィ・ローテ>
『ENCANTO』MARCOS VINISIUS
『LOS TRES ENTILERROS DE MELQUIADES ESTRAD』MARCO BELTRAMI
『GUERO』BECK
『天然コケッコー』レイ・ハラカミ
『AIR’S NOTE』TAKAGI MASAKATSU

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by imai-eiichi | 2007-10-07 12:50




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