ビーチサンダル・クロニクルズ TEXT+PHOTO by 今井栄一

012【マウイ島へ】

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 オアフ島からマウイ島へ。
 ホノルル空港からマウイのカフルイ空港までのフライト時間は30分ほど。ホテルから空港へ行く時間よりも、飛行機に乗っている時間のほうが短いくらいだ。飛行機に乗って、機体が上昇し、簡単な飲み物のサービスが終わる頃にはもう機体は下降し始めていて、ベルト着用サインが灯される。iPodでほんの3〜4曲という時間。まさにワン、ツー、スリーという感じ。
 空港の待合所で周りを見渡せば、旅行者半分、ローカル半分という感じだろうか。ローカルたちは、だいたいビーサンに短パン、Tシャツやハワイアン・シャツという格好で、ほんとうにバス待ちという雰囲気。ハブ空港の国際線乗り場のような大袈裟な感じがまったくない。インターアイランドの待合所はいつも、のんびりしている。

 5月終わりから6月初旬、ハワイ諸島は、どの島へ行くにしても一番いいときだと僕は思う。日本人が少ないのは春の連休後でまだ夏休み前だから。米国メインランドからの旅行者もこの時期は少ない。また、この頃は天候がとても安定していて、どこにいても晴天に恵まれやすい。7月、8月になると、安定しているというよりも「熱い」という気候になる。5月終わりから6月初旬の今は、陽射しは強いけれど、風がすごく爽やかで、それがやはりいいのだ。またこの頃、いろんなトロピカル・フラワーが次々と開くから、風景がとってもカラフル。5月、6月のハワイ諸島は、ほんとうに素晴らしい。

 マウイもそんな素晴らしい青空の下にあり、暑かった。
 マウイ島に降りるのは、およそ1年ぶり。ハワイ諸島でハワイ島に継いで大きな島がマウイ島。実際、レンタカーで島を走り出すと、「ああ、大きな島に来たなぁ」という感じがするから不思議だ。

 ジープ・ラングラーを借りてハナ・ハイウェイを走り、しばらくしてからハレアカラ・ハイウェイに入る。ここからは緩やかな上りの山道だ。両側には広大なシュガーケインの畑、パイナップルの畑。左の彼方に見えている海は、とてつもなく青い。目が痛くなりそうなくらいのブルー。FMラジオのチューニングをいじり、ジミ・ヘンドリクスの歌声が聞こえてきたところで手を止める。マウイ、太陽、乾いた風、揺れる椰子の木々、そしてジミヘン・・・、「サイコー!!」と叫びたくなる。
 マカワオの町をかすめ、その後はずっとカーブが続く山道をじりじりと上がっていく。最近、ハレアカラの山の裾野の一軒家へ引っ越したばかりのケアリイ・レイシェルを訪ねるために、僕はマウイ島へやって来たのだ。

 ケアリイは、ハワイのスーパースターだ。
 西海岸やニューヨークなどでもコンサートを開催し満員の観客を集める人気シンガーであり、と同時に、偉大なるクム・フラのひとりでもある。「クム」とはフラの師匠=マスターのこと。フラは、ジェダイのように、マスターから弟子に伝授されていく「技と心」の伝統世界だ。ケアリイはだから、「偉大なるフラのジェダイ」ということになる(もちろん、彼らは自分たちをジェダイとは呼ばない。僕がここでそう例をあげているだけ)。
 ハワイを気に入り、何度も訪れるようになると、どうしても「フラ、ハワイ音楽の世界」を避けていることができなくなる。僕もだから、ハワイへ通ううちに自然と、フラの世界、伝統的な音楽の世界について学び、少しずつだけれど知識を蓄え、いつしか、その世界の知人や友人も増えていった。ケアリイもそんな友人のひとりだ。

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 ケアリイの新居は、想像以上に素晴らしかった。
 くねくねしたバンピー・ロードを辿って山を駆け上がり(ジープを借りて正解だった)、「まだ上るのかな・・・」とちょっぴり心配になった頃に、電話で告げられた住所が現れた。山の斜面に建つ、2階建ての大きな木の家。周りには美しい森が広がり、いろんな鳥の鳴き声がにぎやかだ。家の周りはぐるりと芝生の植え込みになっていて、犬が自由に走り回れる。もちろん人間も。素晴らしい環境だ。2階の広いラナイからはパイーアの青い海が見渡せる。
「芝刈りが大変なんだよ。1週間に一度は刈らないと。きれいに見える裏には、いろいろ大変な作業があってね」とケアリイが笑う。もちろん、「その大変な作業を楽しんでいる」といった感じだ。
「まだまだこれから、庭を作ったり、やることがたくさんある。楽しみだよ」
 僕はケアリイがかつて作り上げた、素晴らしいハワイアン・ガーデンをワイルクの町で見たことがある。ケアリイは昔、ワイルクにあるベイリーズ博物館のディレクターを務めていたのだが、その博物館の美しい庭を(時間をかけて)作ったのが、ケアリイなのだ。ウル(ブレッドフルーツの樹)の木陰が心地いい、プルメリアが咲き乱れる、緑と花々の香りが漂う、小さな、けれど美しいガーデンだ。そのプルメリアもウルも、ケアリイが植え、大きくなるまで育てたのだ。そう、ビギンがハワイの島々を旅し、その旅の最後にマウイのケアリイを訪ねていく、というTV番組の企画を数年前に僕は作ったのだけれど、その旅の最後に、つまり番組の最後に、ケアリイが「Ka Nohona Pili Kai」を、ビギンが「涙そうそう」を、それぞれ贈りあった(唱った)のが、この美しいガーデンだった。

「今日は素晴らしく良い天気だけれど」とラナイから室内へ戻りながらケアリイが言う、「ここは素晴らしい風の通り道でね、2つの雲がせめぎ合う場所でもあるんだ。ちょうどあっち側に」と言って、片側の森の斜面を指さし「雲が停滞する。こっち側(と反対を指さし)から強い風が流れるから、向こうからやって来た雲が押し戻されながら、でもがんばってそこに停滞するんだ。だから、雨がよく降るんだよ。雨がよく降るから虹もよく架かる。森全体が虹色に染まることもしょっちゅうさ。ここは虹が生まれる場所なんだよ」
 ホノルルでも、マノア・ヴァレーなど、「山肌全体が虹色に染まる」ということが時々あるし、僕も何度か見たことがあるけれど、それはとても不思議な風景だ。ハワイは虹の国=The State of Rainbow。虹を生む雨はハワイでは祝福。ハワイは、雨の島々でもあるのだ。
「ここの雨は、気持ちよさそうですね」と僕が言うと、
「素晴らしいよ。確かに山だから、冬はかなり冷え込む。でも、ここの風と雨は、特別だよね」
 ケアリイはよく風の話をする。彼は、ハワイ諸島のいろんな土地の風の通り道をよく知っているし、どの風がどんなときに吹くのか、今流れた風がいったい何を意味するのか、その風の後には何がやって来るのか・・・などなど、そういうことを知っている人だ。彼が話す風の話は、聞いていて楽しいし、いつも驚かされる。

 風が吹いたら、遠い祖先が語りかけたと思えーー

 そう言ったのは、クリンギット族の古老だったか、それとも星野道夫さんの著書の中で読んだのだったか。
 風の中に物語を見いだすのは、北米インディアンだけではない。ハワイアンたちも、オーストラリアのアボリジニたちも、ニュージーランドのマオリたちも、北海道のアイヌたちも、似たような知恵を伝承している。そう、それは知恵だ。学校で教師が教えようとする知識とは違うもの、新聞やテレビが伝える情報とは違うもの。情報も知識も知恵も、もちろんどれもが大切だけれど、知恵を学べる機会が最近は少ないように思う。もちろん、自ら能動的に学びに行くべきなのだろう。待っていてもヨーダはやって来ない。フォースはマスターについて、自ら学ばなければならない。
 May the Force be with us all・・・

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 ケアリイとのお喋りを楽しんだ僕は、マカワオの町を少しぶらぶらしてからパイーアの町へ行き、そして、ホオキパの崖の上からマウイのサーファーたちを眺めた。風が強く、波は大きかった。サーファー、ブギーボーダー、カイト・サーファーたちが、波を、風を、つかまえていた。いつものマウイがそこにあった。


<今回の旅のヘヴィ・ローテ>
『CLUB KAMA AINA』KAMA AINA
『KE'ALAOKAMAILE』KEALI'I REICHEL
『ON AND ON』JACK JOHNSON
『GLLIA』KAZUMASA HASHIMOTO
『SIGH BOAT』SIGHBOAT
by imai-eiichi | 2006-06-03 17:37




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