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Feature of the month '06.Sep

漫画史を越える漫画

Feature of the month \'06.Sep_b0071699_11283619.jpg 本誌前号の漫画特集にて著者インタビューが掲載されたデスメタルギャグ漫画『デトロイト・メタル・シティ』(若杉公徳/「ヤングアニマル」連載中)、“愛とせいかつに追われる”24歳フリーター女子の赤裸々な日常を4コマ形式で描く『臨死!!江古田ちゃん』(瀧波ユカリ/「アフタヌーン」連載中)など、新人漫画家の新連載&初単行本化作品が今年の漫画シーンを賑わせている。2作はともに、長編ストーリー漫画を主軸とする掲載誌の中ではイレギュラーな、どちらかと言えばお目当ての作品のついでに読む種類のギャグ寄り漫画だが、他の漫画にはない新しい面白さを創出し、新しい読者層の開拓に成功しつつある。
 この流れの中に、05年5月に第1話掲載、先ごろ第1巻が発売されたばかりの新人漫画家の新連載『鈴木先生』(武富健治/「漫画アクション」不定期連載中)を加えたい。上記2作に勝るとも劣らない強烈なビジュアルインパクトを放つ本作は、2年A組を担任する中学教師・鈴木先生の受難を連作短編形式で物語る、異色の学園漫画だ。
 第1巻には3編=3つの事件を収録。「@げりみそ」は、品行方正な優等生が突然、給食時間に下品な発言を連発してクラスを恐慌に陥れた事件が扱われる。彼はなぜ問題行動を繰り返したのか? まさか給食が新本格ミステリになるなんて! 続く「@酢豚」では、給食のメニューから酢豚が消えることを知った大食漢の女子生徒が、涙ながらに酢豚存続を訴え、鈴木先生はそれに応えようとする。学校中を巻き込んだ給食アンケートの結果は、集団と個人の関係性の矛盾を浮かび上がらせる。「@教育的指導」で取り上げられるのは、中学生の性問題。未成年のセックスを、大人達はどんな言葉で止めることができるのか。
 学校空間の日常に転がる小さな、地味な、決してドラマになりそうにない事件でも、鈴木先生の内面を経由すれば、過剰にシリアスで過剰にサスペンスフルな大事件に変貌する。そして、困難な問題を抱えテンパっている人をはたから見ると面白いだとか、絵柄的には劇画なんだけれどパンパンに膨らんだ内面描写は少女漫画ちっくだとか……本作は「金八先生」的にリアルな教育問題を主題にしていながらも、作品の構造に織り込まれたさまざまな“ギャップ”が、どうしようもなくギャグの風味を呼び込んでしまうのだ。
 しかし、おそらく、作者は笑わせる気では描いていない(ユーモアを帯びている自覚はあるにしても)。そこが、80年代に流行した劇画タッチのパロディ・ギャグ漫画とは決定的に違うところだ。作者は極端な技術革新を遂げた現代漫画の最前線から一歩も二歩も引いた場所に立ちながら、パロディや批評意識ではなく、あくまでも真摯に個人的に、独自の漫画史を歩んでいるように思う。そこに深い覚悟とポテンシャルが感じられるからこそ、『鈴木先生』という漫画の行く末を追い掛けてしまいたくなるのだ。つまり、こんな漫画、読んだことない!(吉田大助)

『鈴木先生』 武富健治 双葉社 819円(税別)

# by switch-book | 2006-09-19 00:05

読んでおきたい本4冊 '06.Sep

読んでおきたい本4冊 \'06.Sep_b0071699_11214463.jpg『昼の学校 昼の学校』

森山大道/平凡社/1,600円(税別)
写真家森山大道による初の講義録。写真を志す若い学生達との対話は通常のインタビューと異なり、質問がとても直截で切実なだけ、それに答える森山もはぐらかしたりすることなく、あけすけだ。「現在もまだ撮りつづけている写真の魅力は?」という質問に対して、「シャッター音のひとつひとつは、ぼく自身の心臓の鼓動のひとつひとつと同じだし、写したフィルムの一コマ一コマは、歩いてきた一歩一歩と同じです」と答えられる写真家は、やはりそう多くはない。(猪野 辰)




読んでおきたい本4冊 \'06.Sep_b0071699_11215420.jpg『NEW TOWN』
伊藤存/リトルモア/2,800円(税別)
刺繍美術家・伊藤存の作品集は、2点の作品「森」「土のしかけ」の制作プロセスを追いながら、その制作中に生まれた周辺の作品や作品の断片を挿みつつ、刺繍入門書でもある……と、なかなか一言で説明するのがむずかしい。途中に挿入される解説的エッセイもややナンセンス風、というか、趣きのある、含蓄の深い言葉の連なりで、絵本のような感覚もあり、本書自体がまるごと一つの不思議な体験として在る。一気読みではなく、時間をかけてつき合っていきたい一冊。(猪野 辰)




読んでおきたい本4冊 \'06.Sep_b0071699_1122341.jpg『だきしめてスローラブ』
辻信一、三砂ちづる/集英社/1,300円(税別)
「スロー・イズ・ビューティフル」を提唱する辻氏と『オニババ化する女たち』の著者、三砂氏との対談本。「時は金なり」と進む現代において切り捨て失ってしまったものは何かを、男女の愛をテーマに二人の対話が重ねられる。互いに待つこと待ってもらうことを抜きには、人と人の深い繋がりは成立しない、その姿勢があってこそ、人は自然との繋がりや本来の性との繋がりが体感できる。その快楽がいかにすごいか、生き急いできた私達はまだ味わっていない。(川口美保)




読んでおきたい本4冊 \'06.Sep_b0071699_11221081.jpg『萌えるアメリカ』
堀淵清治/日経BP社/1,600円(税別)
出版大国アメリカで日本漫画専門の翻訳出版社として20年前に起業、北米版「少年ジャンプ」の定期刊行を機にブレイクスルー、今や日本産キャラクタービジネスを全面展開する世界視野のマルチメディアカンパニーとなったVIZ(ビズ)創始者による自伝本。成功の源には、著者のニューエイジ思想とコスモポリタニズムがあったというから面白い。社長の個性(ノリ)が会社の個性を作り、異国の地に新たな文化をも根付かせる奇跡が記された、希有なビジネス本!(吉田大助)
# by switch-book | 2006-09-19 00:00




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