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Feature of the month '06.May

『ぼくのメジャースプーン』 言葉、という魔法の力

Feature of the month \'06.May_b0071699_2041333.jpg いじめや児童虐待、ストーカー犯罪などを題材に採り、ミステリーとしての魅力を十分に備えながらも、読み手の現実に突き刺さるシリアスな小説群を発表してきた、第31回メフィスト賞受賞作家の辻村深月。彼女の最新作『ぼくのメジャースプーン』は、前3作に比べ新本格的“仕掛け”への嗜好は弱まり、謎解きの楽しさもあまり重視されてはいない。だが、「人が死ぬ」「人が人を殺す」というミステリーのお約束事の倫理観を問うという、ミステリー作家ならではの想像力が徹底された、やっぱりこれはミステリーなのだと思う。
 主人公の「ぼく」は小学4年生。「一番いいと思ってる子」は1年の時からクラスが一緒のふみちゃんで、たくさん知識を知っていて、でも自分の正しさを主張せず周りを大切にできる彼女のことを「こっそり尊敬」している。なのに三カ月前、ふみちゃんが大事にしていた学校のうさぎ達が殺された。バラバラになったうさぎの第一発見者になったふみちゃんは、心を壊したまま登校拒否を続けている。
「ぼく」の秘密は、「もしも、『何か』をしなければ、『ひどいこと』が起きる」と囁くことで、相手を操る魔法の力を持っていること。それまでは「知ることではなく、封じ込むこと」で力をやり過ごしていた「ぼく」は、うさぎを殺し、ふみちゃんを壊した二十歳の医学生・市川雄太に力を使うことを決める。そして、力の正しい使い方を学ぶため、同じ能力者である大学教授・秋山先生の元を訪れる。死ぬことさえ恐くないとうそぶく悪意の塊である市川雄太に、どんな呪いをかけ、どんな罰を与えるのがふさわしいのか? しかも、同一人物に力は二度、使えない……! 市川雄太との面会日までの7日間、「ぼく」はこの謎(ミステリー)を巡って、秋山先生との会話を積み重ねていく。
 被害者と加害者の反転。論理では太刀打ちできない暴力。力を持つ側の恐怖。人間と動物の命の重さの違い。人間の悪意というものの存在。この世で一番ひどい復讐方法。「ぼく」よりずっと攻撃的な思想を持ち、過去に何度も力を行使した経験のある先生は、「ぼく」に優しく問いを投げかけながらも、時おりあからさまに倫理を踏み外してみせる。そこで違和感を感じるからこそ「ぼく」は自分でものを考え、自分の倫理観を鍛え上げることになる。そして読者は、「ぼく」が傷だらけで試行錯誤する過程にきっと、心に書き留めておきたくなる大切な言葉を何度も見つけることになるはずだ。例えばこんな言葉、「責任を感じるから、自分のためにその人間が必要だから、その人が悲しいことが嫌だから。そうやって、『自分のため』の気持ちで結びつき、相手に執着する。その気持ちを、人はそれでも愛と呼ぶんです」。
 登場人物に、だけじゃない。読者の心にかけられていた呪いさえも解除してしまう、それが小説家の使う、言葉という魔法の力。魔法はここに、確かに存在する。(吉田大助)

『ぼくのメジャースプーン』 辻村深月 講談社ノベルス 970円(税込)
by switch-book | 2006-05-19 00:05

読んでおきたい本4冊 '06.May

読んでおきたい本4冊 \'06.May_b0071699_14193099.jpg『世界の音を訪ねる−−音の錬金術師の旅日記』
久保田真琴/岩波新書/940円(CD付)
「その土地を知る」ためのひとつは、その土地の「音楽」を知ることだと思う。土地の形、言葉の響き、気候、湿度、歴史、人々の暮らし、そのすべてを音楽からは聴き取れるからだ。そしてそこに現代の文化が生まれ、絡まっていけば、音楽もまた様々な変化を起こしていく。まさに世界は常に動いているということ。久保田真琴という音楽家/音楽プロデューサーが世界の音楽を訪ね、出会い、驚くこの本は、そんな蠢く世界を知るための旅である。(川口美保)




読んでおきたい本4冊 \'06.May_b0071699_14194168.jpg『トラベル』
横山裕一/イースト・プレス/¥1,141(税別)
デビュー作『ニュー土木』では、セリフ一切なしでひたすら石材と木材をビルド&スクラップする驚異の“クラフトワーク”漫画を展開した奇才・横山裕一が、今度はひたすら疾走する世界の車窓からの風景を描いた“トランス・ジャパン・エキスプレス”漫画を上梓した。がんがん進んでいくコマからコマへの連続は、まったくストーリーを語らず、車内外の出来事を描写していく。しかも巻末註では、その描写をなぞり文字化していくという手の込みようで、今回も圧倒的な密度&スピード感に押し流されてラストを迎えた。(猪野 辰)




読んでおきたい本4冊 \'06.May_b0071699_14195079.jpg『RANGOON RADIO』
宇川直宏/三一書房/¥3,333(税別)
メディアレイピスト宇川直宏によるアートディレクション/スクラップ/ミャンマー海賊ラジオ放送MC、白根ゆたんぽによるイラスト、ミャンマー人の母と日本人の父を持つ弓田ヒロの写真、そしてアニメーション作家相原信洋と漫画家根本敬がミャンマー海賊ラジオ放送ゲスト……と、濃い面子が集合して繰り広げるアートブック(CD付)。ミャンマー海賊ラジオ放送って? と思わずツッコミたくなるけれど、読み終わってもなぜミャンマーなのか、はよくわからぬまま、ふたたび冒頭に戻る、謎のミャンマー本。(猪野 辰)




読んでおきたい本4冊 \'06.May_b0071699_1419599.jpg『SOIL[ソイル]』第4巻
カネコアツシ/エンターブレイン/¥740(税別)
昨年『乱歩地獄』で映画監督デビューした筆ペン漫画家・カネコアツシが描く、サイコホラー最新刊。幸福な一家失踪事件をきっかけに、新興住宅地「そいるニュータウン」で次々に連鎖し始めた超常現象。街を覆う暗闇を覗き込んだ生存者によれば、それは「解かれるべくして在るのではない謎」。半世紀前にこの地で起きた猟奇的殺人事件、縄文時代の呪術的世界、そして地球外へと、暗闇は時空を越えて広がり続ける。辻褄の合う気配がぜんぜんない物語が断然、素晴らしい。(吉田大助)
by switch-book | 2006-05-19 00:00




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