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Feature of the month '06.Oct

ストリートに佇む言葉を「読む」術

Feature of the month \'06.Oct_b0071699_18592395.jpg 「現代詩」という、現在ではほとんど化石同然に考えられているジャンルに「夜露死苦」というヤンキー用語を冠しただけで、急に化石が溶解し「現代」という文字が生々しく解き放たれるようなイメージ。
 編集者ならではのネーミングの妙だと思うが、さらに言うなら、このタイトルの連載を「新潮」というバリバリ老舗の文芸誌で展開するという戦略もまた、編集者的センスのなせる技だ。
 連載時にも数回読む機会があったけれど、近年のリニューアルで比較的若返った印象があるとはいえ、「新潮」の誌面ではまずお目にかかれそうもないお題が目に飛び込んでくるさまはやはり痛快であり、単にふざけているわけでもなく、大上段に構えているわけでもないこのシリーズが、他ならぬ文芸誌という場所で活き活きと展開された意味はやはり大きい。
 何しろ、いきなり死刑囚の俳句やエロサイトのキャッチコピーがまるまる一回分フィーチャーされたりするのだから、お固い文壇関係者が眉をひそめたりすることもあるのかもしれないが、その「いたずら感」もまた、都築の真骨頂だろう。
 とはいえ、都築はいたずらだけを目的にこれらのネタを採集しているわけでは当然なく、むしろそこに対象への尽きない興味と愛着があることは文章を読めば明らかだ。
 たとえば、ヒップホップに関しては二章が割かれている。一つは現在世界でもっともポピュラーなジャンルとして定着したアメリカのヒップホップのメインストリームを疾走するジェイZ、ナズ、エミネムといったラッパーのリリックを紹介した章。そしてダースレイダーという一般的にはまだそれほど知られていない日本人のヒップホップアーティストのロングインタビューを掲載した章。
 これらのネタはいずれもヒップホップという現象にリアルタイムでつき合っていなければ出てこない。しかも、ものすごくマスな話題とものすごくインディペンデントな話題を取り上げ、そのいずれもヒップホップをほぼ知らないと予想される「新潮」の読者にも届くように噛み砕いてみせる。
 玉置宏の曲紹介をヒップホップのMCの語源であるマスター・オブ・セレモニーに喩えたり、「点取占い」をアーカイビングし、制作会社を取材したり、昔懐かしい誰もが知っているものをあらためてアップデートしていく手つき。
 あるいは、寝たきり老人の独り言や精神分裂病患者が書きなぐった詩といった、いわば社会の外部に置かれた人々が綴った言葉を丁寧に拾い上げる手つき。
 どこか切なく、どこか可笑しい、街中に埋もれていた言葉が持つリアリティから、文学が本来担うべき作用を見出す術に、何度も瞠目させられた。(猪野 辰)

『夜露死苦現代詩』 都築響一 新潮社 ¥1,600(税別)

by switch-book | 2006-10-19 00:05




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