Feature of the month '06.Jul
伊藤若冲「花鳥−愛でる心、彩る技<若冲を中心に>」展 鎖国で熟成したオリジナル文化
花鳥−愛でる心、彩る技<若冲を中心に>」展@皇居・三の丸尚蔵館/開催中(30幅を5期に分けて順次公開。第4期=8/6まで、第5期=8/12〜9/10)
http://www.kunaicho.go.jp/
プライスコレクション「若冲と江戸絵画」展@東京国立博物館/開催中(8/27まで)
http://d.hatena.ne.jp/jakuchu/
最近、気になる画家は?と聞くと、若冲の名前を挙げるアーティストがやけに多い。伊藤若冲(一七一六〜一八〇〇)は、日本文化が栄華を誇った江戸時代中期に、独創的な画法を編み出した奇想の画家だ。明治以降、欧米に追随してきた日本の美術シーンが、鎖国で熟成したオリジナル文化に目を向け始めたこと自体、ポジティブな価値観の変化に違いない。その折も折、時を経てなお人々をインスパイアする奇才の偉業が、二つの展覧会で公開されている。
皇居の三の丸尚蔵館で見られる「動植綵絵」三十幅は、若冲が四十代を費やして完成させた代表作である。もともと、京都相国寺に伝わる自作の「釈迦三尊像」を飾るために制作したもので、様々な草花、鶏や昆虫、魚など、命あるもの達が精緻な筆致でびっしりと描き込まれている。注目は、時空がねじれた奇抜な構図と鮮やかな装飾性、キャラ達の可愛さなど。遠近法はもちろんない時代に、三次元空間を折り紙のように二次元に畳み込み、モチーフを執拗に繰り返して、驚異的な想像世界を出現させている。
京都錦小路の青物問屋に生まれた若冲は、一時は家業を継ぐものの、四十歳で画業に専念。最初は狩野派に学び、つぎに中国画をひたすら模写したが、やがてそれにもあきたらず、自宅の庭で鶏を飼って、物に即して描くことを徹底した。そして、自分の見方でとらえた主観的現実を絵画という虚構に変形させ、草木にさえ魂の宿る、躍動感溢れる画風を完成させた。それは、中国の花鳥画をルーツとしながら、当時流行った博物学や園芸、琳派の影響など、様々な要素を採り込む新しい絵画の再構築であり、今の漫画やアニメにも連なるスーパーフラットな美学に貫かれている。形式にとらわれない探求心と独創性は群を抜く。町人文化に育まれた若冲は、京画壇の因習を破る正真正銘の前衛だったのだ。
さて、東京国立博物館では、江戸絵画の収集で有名なプレイスコレクションによる「若冲と江戸絵画」展も開催中だ。米国人のプライス氏は若冲を世界で最初に見出した人物として知られている。日本文化を誇りたい日本人としては若干心中が複雑ではあるが、この際こだわりは捨てて、まずは見に行かねばならない。動物キャラ大集合の、あの象がいる「鳥獣花木図屏風」も見られることだしね。(宮村周子)
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by switch-art
| 2006-07-19 00:05
触れておきたい展覧会&DVD '06.Jul
『さよならナム・ジュン・パイク展』
『さよならナム・ジュン・パイク展』@ワタリウム美術館/開催中(10/9まで)
http://www.watarium.co.jp/
メディアといえば、いまやコンピュータやインターネット・サイトが最もはずせない代名詞で、デジタル社会における実体感のなさがますます加速している今日この頃。それでもほんの三、四十年前までは、メディア・アートといえばテレビやビデオ映像が定番で、その先駆的表現者が、韓国出身のナム・ジュン・パイクだった。2006年1月に亡くなった氏を追悼する展覧会を一巡し、あらためてテクノロジーの発展の早さと、根底にある人間の変わらなさについて思った。前衛音楽、美術、哲学に通じ、フルクサス運動に参加したパイクの代表作は、ビデオ映像を流し続けるテレビを積み上げたインスタレーションなどだ。それらがロボットや衛星放送、YouTube的リミックス映像やネット社会など、今の世の中を予見して、あえてローファイ手法で人を戯画化しているのに驚かされる。彼は文明を考え、瞑想する装置をつくろうとしていたのかもしれない。(宮村周子)
ボブ・ディラン『ノー・ディレクション・ホーム』
DVD ボブ・ディラン『ノー・ディレクション・ホーム』
パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン/¥4,935(税込) 2枚組 発売中
音楽のみならず、その発言や行動が井上陽水やみうらじゅん等日本のアーティストにも多大な影響を与え続けるボブ・ディラン。その彼の人生を、映画『ラストワルツ』の監督としても知られる巨匠マーティン・スコセッシが映画化。公民権運動や反戦活動の起こった60年代の揺れ動くアメリカ社会を背景に、レア音源やライブ映像、貴重なインタビューを基に構成される本作は、ディランがいかにかっこよく、本物なのかということを、当時の彼を知らない現在の若い世代にもわかりやすく伝えてくれる。「君はどう思ってる?」 アコースティックからエレキギターに持ち替えファンから激しいブーイングを浴びた65年の伝説のライブ後、ツアーで訪れたヨーロッパ各地での記者会見の場で、まぬけな質問ばかりするインタビュアー達にそう聞き返す彼の姿が印象的である。(鈴木久美子)
『さよならナム・ジュン・パイク展』@ワタリウム美術館/開催中(10/9まで)
http://www.watarium.co.jp/
メディアといえば、いまやコンピュータやインターネット・サイトが最もはずせない代名詞で、デジタル社会における実体感のなさがますます加速している今日この頃。それでもほんの三、四十年前までは、メディア・アートといえばテレビやビデオ映像が定番で、その先駆的表現者が、韓国出身のナム・ジュン・パイクだった。2006年1月に亡くなった氏を追悼する展覧会を一巡し、あらためてテクノロジーの発展の早さと、根底にある人間の変わらなさについて思った。前衛音楽、美術、哲学に通じ、フルクサス運動に参加したパイクの代表作は、ビデオ映像を流し続けるテレビを積み上げたインスタレーションなどだ。それらがロボットや衛星放送、YouTube的リミックス映像やネット社会など、今の世の中を予見して、あえてローファイ手法で人を戯画化しているのに驚かされる。彼は文明を考え、瞑想する装置をつくろうとしていたのかもしれない。(宮村周子)
ボブ・ディラン『ノー・ディレクション・ホーム』
DVD ボブ・ディラン『ノー・ディレクション・ホーム』
パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン/¥4,935(税込) 2枚組 発売中
音楽のみならず、その発言や行動が井上陽水やみうらじゅん等日本のアーティストにも多大な影響を与え続けるボブ・ディラン。その彼の人生を、映画『ラストワルツ』の監督としても知られる巨匠マーティン・スコセッシが映画化。公民権運動や反戦活動の起こった60年代の揺れ動くアメリカ社会を背景に、レア音源やライブ映像、貴重なインタビューを基に構成される本作は、ディランがいかにかっこよく、本物なのかということを、当時の彼を知らない現在の若い世代にもわかりやすく伝えてくれる。「君はどう思ってる?」 アコースティックからエレキギターに持ち替えファンから激しいブーイングを浴びた65年の伝説のライブ後、ツアーで訪れたヨーロッパ各地での記者会見の場で、まぬけな質問ばかりするインタビュアー達にそう聞き返す彼の姿が印象的である。(鈴木久美子)
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by switch-art
| 2006-07-19 00:00