Feature of the month '06.Aug
シャガール『「アレコ」とアメリカ亡命時代』展 華やかな浮遊感の裏側に……
シャガール『「アレコ」とアメリカ亡命時代』展@青森県立美術館
7/13-9/24
http://www.aomori-museum.jp
提供:青森県立美術館
芸術家は、普通の人より少し地面から浮いたところを生きているのかもしれない。喜びも不条理も渾然一体となった現実社会を、ひょいと飛び越えた視点から表現する想像界の住人。空飛ぶ鶏や馬、恋人達といった幻想的なイメージで知られるユダヤ人画家、マルク・シャガール(一八八七〜一九八五)はしかし、その浮遊感の裏に様々な葛藤を抱えていた。
青木淳の斬新な建築が話題を呼ぶ、青森県立美術館のオープニングを飾るのが、所蔵作品「アレコ」を中心にした、アメリカ亡命時代のシャガール展である。「アレコ」とは、シャガールが一九四二年に手がけた、バレエ「アレコ」のための背景画のこと。所蔵する三点を含む全四点からなり、縦九メートル幅約十五メートルを超える大作が、巨大な吹き抜け空間、アレコホールに展示されている。
一九四一年、反ユダヤ主義を掲げるナチス・ドイツが勢力を拡大する中、フランスからアメリカへと亡命したシャガールは、ニューヨークのアメリカン・バレエ・シアターから舞台美術の依頼を受け、前述の背景画と三十四点の舞台衣装、下絵を制作する。ロシアの文豪、プーシキンの詩を原作とし、チャイコフスキーのピアノ曲を用いるバレエ「アレコ」は、文明社会に幻滅した青年アレコがジプシーの娘と恋に落ち、やがて彼女の浮気に激怒し、娘とその愛人を刺し殺すというストーリー。同郷のロシア人振付家、レオニード・マシーンと共作し、祖国へのオマージュといえるこの仕事にシャガールは没頭した。
亡命者達が盛り上げたアメリカ現代美術の黎明期につらなる、斬新な抽象的構成とファンタジックなモチーフの融合。迫力の背景画はもとより、もうひとつの見所は舞台衣装だ。画家自らが生地の上にドローイングする大胆さに、出演者たちも仰天したらしいが、今なお色あせない自由な想像力と豊富なアイディアは必見だ。
展覧会は、戦争下における不遇のユダヤ人の悲劇を革命思想と重ね合わせて描いた磔刑図や、愛妻と恋人への愛の表現、そして、故郷喪失感の果てに見つけた「魂の中の国」というテーマが続く。それらが、華やかなバレエ芸術を生んだ激動の人生の光と闇を、一層色鮮やかに浮かび上がらせている。(宮村周子)
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by switch-art
| 2006-08-19 00:05
触れておきたい展覧会2本 '06.Aug
『ライフ』展
ライフ』展@水戸芸術館現代美術ギャラリー/7/22〜10/9(月曜休館)
http://www.arttowermito.or.jp/life/lifej.html
岡崎京子《リバーズ・エッジ》1994年/©岡崎京子/宝島社
シンプルかつ幅のあるテーマの元、現代美術のアーティストのほかに、HIV予防運動にとりくむアクティビスト、マンガ家や障害をもちながら制作活動を行う作家達が集められている。会場では各人のバックグラウンドが明示されていないので、本当にむき出しの表現と出会うという仕掛け。これまでアウトサイダー・アートとしてくくられてきた、やむにやまれず表出する障害者のアートを、人に見せることを前提とした現代アートと並列させること自体が挑戦的だが、会場をめぐると、不思議なほどに全部が馴染んで見える。そして、生々しい。齋藤裕一のテレビ番組のタイトルを羅列したドローイングも、今村花子の荒々しい抽象画も、吉永マサユキが撮る暴走族達の姿も、岡崎京子「リバーズ・エッジ」の痛々しさも、繊細で脆い人物表現の数々も、すべてが今の人間のリアリティに繋がっている。アートの根元的な価値について考えさせる展覧会。(宮村周子)
大橋仁展『ラッキーか?』
大橋仁展『ラッキーか?』@エモン・フォトギャラリー/9/5〜10/8(日・祝定休日)
http://www.emoninc.com
写真家・大橋仁による、意外にも初、の東京における個展が開催される。『目の前のつづき』『いま』と、いずれも嫌がらせのようにブ厚い、これまで出版された2冊の写真集の、アラレもない、または根も葉もない、または神も仏もない、要するに大人げない、いわゆる「それを言っちゃあお終えよ」的な、人間が持っている「性(さが)」やら「業(ごう)」やらDNAレベルの陰と陽を、強引にでも白日のもとに引きづり出して、これでもかと気の遠くなるような長い時間をかけて凝視する写真術は、写真展という場でどんな展開を見せるのだろう、か。本人によれば、過去に撮影してきた既出の作品と、まだ世の中に出たことのない新作・未発表作品をシャッフルする予定だという。広尾の地下にある清潔感溢れるギャラリー、という設定が、はたして吉と出るか凶と出るか。これは見物。(猪野 辰)
ライフ』展@水戸芸術館現代美術ギャラリー/7/22〜10/9(月曜休館)
http://www.arttowermito.or.jp/life/lifej.html
岡崎京子《リバーズ・エッジ》1994年/©岡崎京子/宝島社
シンプルかつ幅のあるテーマの元、現代美術のアーティストのほかに、HIV予防運動にとりくむアクティビスト、マンガ家や障害をもちながら制作活動を行う作家達が集められている。会場では各人のバックグラウンドが明示されていないので、本当にむき出しの表現と出会うという仕掛け。これまでアウトサイダー・アートとしてくくられてきた、やむにやまれず表出する障害者のアートを、人に見せることを前提とした現代アートと並列させること自体が挑戦的だが、会場をめぐると、不思議なほどに全部が馴染んで見える。そして、生々しい。齋藤裕一のテレビ番組のタイトルを羅列したドローイングも、今村花子の荒々しい抽象画も、吉永マサユキが撮る暴走族達の姿も、岡崎京子「リバーズ・エッジ」の痛々しさも、繊細で脆い人物表現の数々も、すべてが今の人間のリアリティに繋がっている。アートの根元的な価値について考えさせる展覧会。(宮村周子)
大橋仁展『ラッキーか?』
大橋仁展『ラッキーか?』@エモン・フォトギャラリー/9/5〜10/8(日・祝定休日)
http://www.emoninc.com
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by switch-art
| 2006-08-19 00:00