Feature of the month '06.Nov
密度が濃い圧倒的物量感
大竹伸朗展『全景』@東京都近代美術館/開催中(12/24まで)月曜休館
http://www.mot-art-museum.jp/
圧倒的な物量感と、イメージの洪水。大竹伸朗の初の大回顧展は、とにかく密度が濃い。なにしろ、六歳の頃から五十一歳になる現在までの作品がじつに二万点、年代順に並べられ、部屋によっては五段掛けぐらいに壁を埋めていたりする。巨大な緞帳とパチンコ屋からもらったという自由の女神像が圧倒的存在感を放つ吹き抜けでは、DJブースから楽器を遠隔演奏できる異色のバンド小屋「ダブ平&ニューシャネル」が、ときおり展示室まで届くノイズを響かせている。建物の入口上部には、大竹自身が暮らす愛媛県の地元から持ち込んだ「宇和島駅」の赤いネオンサインが。美術館はまるまる大竹にジャックされていた。
一九八〇年代初頭に新しいペインティングの旗手としてデビューした大竹は、早熟の天才として注目を集めた存在である。会場を回れば明白なように、最初独学だったという絵の腕は抜群で、中高時代ですでに完成の域に達していて、その後、新表現主義などの同時代アートの影響も受けつつ、絵画、立体、コラージュ、写真、デザイン、文学、そして音楽と、あらゆるジャンルの先駆的表現をものすごい勢いで放出してきた。ライフワークであるスクラップブックのように、拾い集めた雑誌イメージや印刷物の切れ端を即興的にコラージュしていくやり方と、旅の記憶や頭の中にたまった過去のイメージをその都度ひっぱり出すこともある。出自不詳なイメージを過剰に重ねるサイケデリックな作品から、「日本景」のように、ふるいにかけられた記号の断片によって非現実的な俳句世界をつくりだす作品まで、既存のイメージを取り扱う様は、年々神業がかったものになってきている。
手持ちのネタを直感的に使い、最大限のエフェクトを引き出す大竹の作品を、バンド、PUZZLE PUNKSで競演するEYEは、「最高のDJプレイのよう」と称す。地元では、彼を知る近隣から彼好みの廃材が知らず知らず集まってくるんだそうだ。画家を志した頃から一日も制作の手を休めたことがない。インターネットでつながったこの情報化社会で、人間の視覚能力の限界に嬉々として挑む大竹は、まだまだ疾走しつづけている。(宮村周子)
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by switch-art
| 2006-11-17 00:05
触れておきたい展覧会・DVD '06.Nov
奈良美智展『Moonlight Serenade 月夜曲』
奈良美智展『Moonlight Serenade 月夜曲』@金沢21世紀美術館/開催中(2007/3/21まで)月曜休館
http://www.kanazawa21.jp/
故郷・青森県弘前市での小屋プロジェクト「A to Z」を大盛況のうちに閉幕することができた奈良美智だが、開催中の新作展では、すでにつぎなる進化を見せている。パートナーのgrafとともに制作した「Voyage of the Moon」は、実際に人の出入りできる家の上に、大きなお月様の頭がちょこんと載っかるファンタジックな作品。A to Zで高めた技とチームワークが生み出したのは、工芸品のように美しい完成された世界観だった。部屋いっぱいに巨大な犬のぬいぐるみがいる「Dog-o-rama」では、子供達が犬の着ぐるみをが着て館内をパトロールするという楽しい企画が進行中。さらには、小屋を増築してカフェの併設する制作場所にしたバックヤードのスタジオでは、奈良自身が現場制作し、そのプロセスを覗き見られるという贅沢なプロジェクトも続く。(宮村周子)
ウィスット・ポンニミットDVD『イエロー』『グリーン』
『タムくんアニメ イエロー』(コロンビアミュージックエンタテインメント)
『タムくんアニメ グリーン』(アップリンク)。2タイトルとも発売中/各2625円(税別)
タムくんことタイの漫画家ウィスット・ポンニミットによるアニメーション集が2タイトル同時発売された。平面でも漫画、イラストレーションなどさまざまな分野で人気の作家だが、アニメーションになっても独特の作風はそのままに、シンプルな技法による画の動きとあいまって絶妙の雰囲気を醸し出している。ミュージシャンでもある本人による、味わい深いピアノ伴奏をバックに展開されるストーリーは、一見ハートウォーミングで素朴な画風とはうらはらに、ときに都会生活のわずらわしさや寂しさ、あるいは人生のやりきれなさや残酷さを切り取ってみせたりする。つまり、ただイノセントなだけ、ピュアなだけ、ではないお話が多いわけだけれど、あらためて作品全体を観終えたときに残る、一抹の心温まる切なさに気づくときこそ、この作家の真価を知ることになる。(猪野 辰)
奈良美智展『Moonlight Serenade 月夜曲』@金沢21世紀美術館/開催中(2007/3/21まで)月曜休館
http://www.kanazawa21.jp/
故郷・青森県弘前市での小屋プロジェクト「A to Z」を大盛況のうちに閉幕することができた奈良美智だが、開催中の新作展では、すでにつぎなる進化を見せている。パートナーのgrafとともに制作した「Voyage of the Moon」は、実際に人の出入りできる家の上に、大きなお月様の頭がちょこんと載っかるファンタジックな作品。A to Zで高めた技とチームワークが生み出したのは、工芸品のように美しい完成された世界観だった。部屋いっぱいに巨大な犬のぬいぐるみがいる「Dog-o-rama」では、子供達が犬の着ぐるみをが着て館内をパトロールするという楽しい企画が進行中。さらには、小屋を増築してカフェの併設する制作場所にしたバックヤードのスタジオでは、奈良自身が現場制作し、そのプロセスを覗き見られるという贅沢なプロジェクトも続く。(宮村周子)
ウィスット・ポンニミットDVD『イエロー』『グリーン』
『タムくんアニメ イエロー』(コロンビアミュージックエンタテインメント)
『タムくんアニメ グリーン』(アップリンク)。2タイトルとも発売中/各2625円(税別)
タムくんことタイの漫画家ウィスット・ポンニミットによるアニメーション集が2タイトル同時発売された。平面でも漫画、イラストレーションなどさまざまな分野で人気の作家だが、アニメーションになっても独特の作風はそのままに、シンプルな技法による画の動きとあいまって絶妙の雰囲気を醸し出している。ミュージシャンでもある本人による、味わい深いピアノ伴奏をバックに展開されるストーリーは、一見ハートウォーミングで素朴な画風とはうらはらに、ときに都会生活のわずらわしさや寂しさ、あるいは人生のやりきれなさや残酷さを切り取ってみせたりする。つまり、ただイノセントなだけ、ピュアなだけ、ではないお話が多いわけだけれど、あらためて作品全体を観終えたときに残る、一抹の心温まる切なさに気づくときこそ、この作家の真価を知ることになる。(猪野 辰)
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by switch-art
| 2006-11-17 00:00