Feature of the month '06.May
森万里子「Tom Na H-iu」展 宇宙へと広がる無意識の行方
森万里子「Tom Na H-iu」展@SCAI THE BATHHOUSE/開催中(6/3まで)
東京都台東区谷中 6-1-23柏湯跡/日月祝日休
http://www.scaithebathhouse.com/
会場に入ると、暗闇にぼうっと光る巨大な柱。不規則なペースで色彩が点滅し、生き物のように、静かに胎動を続けている。卵のように見えなくもない。天井の高い、雰囲気のある会場の様子も手伝って、どこか呪術的な強いオーラを放っている。
最近の森万里子の関心は、宇宙へと広がっている。「Tom Na H-iu(トムナフーリ)」と題された、高さ三メートルの新作は、岐阜県にある東京大学宇宙線研究所「スーパーカミオカンデ」の協力で得たニュートリノの情報により、発光している。ニュートリノとは、超新星爆発(星の死)の際に発せられる物質のこと。つまり、宇宙で星が亡くなるたびに、遠く離れたこの地上の柱がまたたくというわけだ。ラインの不調で、希望したように随時検出データを受信することはかなわず、過去の集積情報から事象を縮小してシミュレーションしているという。それにしても、説明を受けるだけで、はるか彼方の宇宙へと想像が広がっていく。そのスケール感は爽快だ。
森万里子といえば、巫女や天女のコスプレをしたセルフ・イメージの映像や写真作品がよく知られている。それよりもっと前には、日本のアイドルやアニメ・キャラ風に扮した写真もあって、ポップ・カルチャーにおける自分探しの業のようなものが、つるつるした表面から滲み出ているのが面白かった。しかし、彼女自身が神話の主人公となることで、視点はどんどん切り替わり、ついには本人の姿は作品から消えた。近年話題を呼んだ「Wave UFO」は、観客がピカピカの宇宙船の中で脳波を検出され、インナースペースをのぞき見る不思議な装置だった。そして、二〇〇四年の「トランスサークル」は、環状列石を模したオブジェが惑星の運行と連動して光るSF的インスタレーションだ。主客は逆転し、ファンタジーは観客自身が紡がなければならなくなった。
内面世界から宇宙へ繋がる発想の飛躍はタカノ綾の世界観とも通じるし、宇宙を観相させるミニマルな作法はジェイムズ・タレルらの作品も想起させる。トムフナーリとはケルト語で霊魂が集まり、生死が交差する場所を指すという。最近は、霊的な場所を求めてフィールドワークをする彼女は、宇宙人とも交信を始めたのだろうか。この現代における、無意識の拡張の行方は気になるところだ。(宮村周子)
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by switch-art
| 2006-05-19 00:05
触れておきたい展覧会2本 '06.May
岡本太郎 他『帰国展 CHIKAKU 4次元との対話』
『帰国展 CHIKAKU 4次元との対話〜岡本太郎から始まる日本の現代美術〜展』@川崎市岡本太郎美術館/開催中(6/25まで)
http://www.taromuseum.jp/
第二次大戦後、東北や沖縄を精力的にめぐり、縄文土器を芸術として再発見した岡本太郎。それらの、表面的な現実性を超えた四次元との対話に可能性を見た彼の視点をキイに、日本の代表的現代作家を集めたグループ展。ヨーロッパ巡回を経ての会場は、川崎市岡本太郎美術館。知覚と想像力を爆発させ、力強く圧倒的な造形を生み出した太郎の軌跡を見た後、同展の展示をめぐるのは新鮮だ。触れるとさわさわ光がさざめく森脇裕之のメディア・アート、太郎にひけをとらない強さを持つ中平卓馬の写真、テントを被った少女の物語を映像化したやなぎみわ、マンガ的な擬態を精緻な彫刻にする小谷元彦、日本でフィールドワークしたトリン・ミンハの映像etc.。大きすぎる問題提起を一点一点で検証するのは容易じゃないが、逆に太郎の業績を振り返る意味で興味深い展覧会。(宮村周子)
南桂子『bonheur(ボヌ−ル)展』
南桂子『bonheur(ボヌ−ル)展』@ミュゼ浜口陽三・ヤマサコレクション/開催中(8/6まで)
http://www.yamasa.com/musee/ 南桂子作品集『bonheur』(リトルモア刊)は5月下旬発売
2004年に享年93歳で逝去した版画家、南桂子。新潮文庫版オスカー・ワイルド『幸福な王子』や谷川俊太郎『うつむく青年』の装画が比較的知られている彼女の作品は、現在の感覚で見ても新鮮だ。南桂子は、銅版画の巨匠・浜口陽三の夫人であり、43歳で渡仏。パリで本格的に銅版画を習得し、ニューヨーク近代美術館のクリスマスカードやユニセフのグリーティングカードに作品が採用されるなど、国際的にも評価された……というプロフィールを持つ。ぽつんと立ち、空を見上げるどこか寂しげな少女の姿が特に印象深いけれど、その姿は故郷日本を遠く離れて暮らしていた南自身の孤独にどこか重なりもする。しかしその一方で、とても叙情的で、やさしく洗練された色彩感覚は、まだどこかに存在するに違いない「幸せ=bonheur(ボヌ−ル)」への祈りを感じさせてくれる。(猪野 辰)
『帰国展 CHIKAKU 4次元との対話〜岡本太郎から始まる日本の現代美術〜展』@川崎市岡本太郎美術館/開催中(6/25まで)
http://www.taromuseum.jp/
第二次大戦後、東北や沖縄を精力的にめぐり、縄文土器を芸術として再発見した岡本太郎。それらの、表面的な現実性を超えた四次元との対話に可能性を見た彼の視点をキイに、日本の代表的現代作家を集めたグループ展。ヨーロッパ巡回を経ての会場は、川崎市岡本太郎美術館。知覚と想像力を爆発させ、力強く圧倒的な造形を生み出した太郎の軌跡を見た後、同展の展示をめぐるのは新鮮だ。触れるとさわさわ光がさざめく森脇裕之のメディア・アート、太郎にひけをとらない強さを持つ中平卓馬の写真、テントを被った少女の物語を映像化したやなぎみわ、マンガ的な擬態を精緻な彫刻にする小谷元彦、日本でフィールドワークしたトリン・ミンハの映像etc.。大きすぎる問題提起を一点一点で検証するのは容易じゃないが、逆に太郎の業績を振り返る意味で興味深い展覧会。(宮村周子)
南桂子『bonheur(ボヌ−ル)展』
南桂子『bonheur(ボヌ−ル)展』@ミュゼ浜口陽三・ヤマサコレクション/開催中(8/6まで)
http://www.yamasa.com/musee/ 南桂子作品集『bonheur』(リトルモア刊)は5月下旬発売
2004年に享年93歳で逝去した版画家、南桂子。新潮文庫版オスカー・ワイルド『幸福な王子』や谷川俊太郎『うつむく青年』の装画が比較的知られている彼女の作品は、現在の感覚で見ても新鮮だ。南桂子は、銅版画の巨匠・浜口陽三の夫人であり、43歳で渡仏。パリで本格的に銅版画を習得し、ニューヨーク近代美術館のクリスマスカードやユニセフのグリーティングカードに作品が採用されるなど、国際的にも評価された……というプロフィールを持つ。ぽつんと立ち、空を見上げるどこか寂しげな少女の姿が特に印象深いけれど、その姿は故郷日本を遠く離れて暮らしていた南自身の孤独にどこか重なりもする。しかしその一方で、とても叙情的で、やさしく洗練された色彩感覚は、まだどこかに存在するに違いない「幸せ=bonheur(ボヌ−ル)」への祈りを感じさせてくれる。(猪野 辰)
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by switch-art
| 2006-05-19 00:00